デブリが飛び交う宇宙空間|新井 和吉

デブリが飛び交う宇宙空間|新井 和吉

法政大学 理工学部 機械工学科航空操縦学専修 教授

宇宙に飛び出したら,広がるのは真っ暗で静かな空間。そんな宇宙の様子は,この50年で少し変わってきています。人が打ち上げてきた5,000機以上の人工衛星は,その95% が任務を終了した今も,残ざんがい骸となって宇宙を漂っているのです。

宇宙船を守る「シールド」

宇宙を飛び交う残骸は「スペースデブリ」と呼ばれ,その数はおおよそ4,000万個以上ともいわれ,時速27,000kmもの速さで地球の周りを飛び交っています。たとえば,この速度で1円玉がぶつかると,時速60kmのバイクと同じくらいの破壊力を生みます。直径10cm以上の大きなスペースデブリは地上から観測可能なため衝突を回避できます。一方で,1cm以下ならば宇宙船に衝突しても防御できる対策がなされています。問題は1〜10cmのスペーズデブリ。避けることはできませんが,万が一当たると船体が損傷(そんしょう)する可能性があるからです。対策としてこれまで使われていたのは,アルミニウム合金やセラミックなどを組み合わせた防護壁(シールド)。しかしシールド自体の重量や厚さが,地上から打ち上げられるときの負担となります。また,宇宙空間でスペースデブリにより破損した破片がさらなるスペースデブリを生むという問題もありました。そこで軽くて丈夫で散らからない,新しいシールドが研究されているのです。

組み合わせが新たな機能を生む

最先端のシールドには「ポリカーボネート」,「シリコーンゲル」,「炭素繊維強化プラスチック」,「アラミド繊維」の4 種類の性質の異なる素材からつくられます。ひとつひとつの素材は靴底やCD-ROMなど身近なところで使われているもの。これらの軽くて丈夫な素材を巧妙に重ね合わせ,衝突したスペースデブリを細かく粉砕し,シールドの中に破片を留める,という機能を持ちます。宇宙空間で発生した残骸は人の手で片付けることはできず放っておけばどんどん溜まっていきます。そこで,ゴミを出さない工夫が一層重要となるのです。まだ開発途中の新型シールドですが,宇宙生活を守ってくれる日はそう遠くない未来にやってくるでしょう。(文・柳沢佑)

協力:新井 和吉 プロフィール:

法政大学 理工学部 機械工学科航空操縦学専修 教授。1988 年東京工業大学大学院理工学研究科化学工学専攻博士課程修了。博士(工学)。横浜国立大学,日本大学勤務等を経て2002 年より現職。

http://www.a.k.hosei.ac.jp/index2.html