目に棲む、水も滴るイイお化け

目に棲む、水も滴るイイお化け

続いては,ソフトコンタクトレンズ。16 世紀,レオナルド・ダヴィンチが視力矯正の原理を見つけてから数100年間,さまざまに姿やかたちを変えてきたお化けさ。長生きの秘訣は,眼の表面にいても気づかれないように,存在感を消すことだ。

正体はやわらかいプラスチック

ソフトコンタクトレンズが覆うのは,角膜にあたる部分。外部から入る光を屈折させ,網膜上に像を映し出すカメラレンズの役割を持つ。無色透明でいる必要があるため,血管は通っておらず,代わりに表面の涙や眼球内部から酸素と栄養をもらっている。そのため,表面を覆うと角膜の機能が著しく低下してしまう。コンタクトレンズ用の素材に最も求められるのは,酸素透過性なのだ。酸素を通すには,素材の含水率を高めその水分子内に酸素を溶け込ませて運搬する方法がある。現在使用されているのは,プラスチックの一種であるポリ-2- ヒドロキシエチルメタクリレート(PHEMA)。プルプルとしたやわらかい高分子化合物で,1 分子あたりひとつの親水基( ‐ OH)を持つため水分子が多く集まる。しかし,それでも角膜への酸素供給に必要な含水率60% には及ばない。長時間の装着は控えるように言われているのはこのためだ。現在,酸素を通しやすいケイ素(Si)を加えたものや,高含水率になると低下する強度を補う特殊な網目構造を持つものも研究開発されている。

吐く息から生まれる!?

東洋大学 理工学部 応用化学科 教授 吉田 泰彦そんななか,これまで石油を原料とするプラスチックを,東洋大学の吉田泰彦さんはあるものからつくろうとしている。それは,なんと空気中に含まれる二酸化炭素。ポイントは,二酸化炭素を固定するための活性の高い触媒を見つけること。吉田さんは,安定した二酸化炭素の結合をはずし,炭素と酸素をくり返し反応させる亜鉛(Zn)を含む化合物に注目している。これまでに見つかっている触媒の構造を少しずつ変えながら,反応効率の高いものを探索中だ。現在は合成するのに10 時間かかるが,通常のプラスチック合成時間と同じ1 時間に短縮することが
目標だ。実現できれば,化石燃料を使わない新しいプラスチックの合成方法になる。眼に棲むお化けの進化は止ま
らない。( 文・百目木 幸枝)

協力:東洋大学 理工学部 応用化学科 教授 吉田 泰彦
【プロフィール】1980 年東京大学大学院工学研究科合成化学専攻修了。工学博士。講師,助教授を経て1992 年より現職。2011 年より理工学部長も務める。モットー:いろいろなことに興味を持ち,チャレンジ!

http://ris.toyo.ac.jp/details/index.php?user_id=1197

 


高分子化合物ハンターになろう!

プラスチックだけでなく,生き物も持っている高分子化合物を見つけてみましょう。たとえば,ザリガニの甲羅には「キチン」が含まれています。これを取り出すためには,最初に1 〜 2 mol/l の水酸化ナトリウムで,次に1 ~ 2 mol/l の塩酸で1 日ずつ煮ます。すると,炭酸カルシウムとタンパク質が溶け出し,キチンのみで構成された甲羅が残ります。ほかの生き物はどんな高分子化合物を持っているか,調べてみましょう。

キチン質でできたカニの外骨格

 

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