母校を世界へ  ~眼科医、一流を目指す~ 猪俣 武範

母校を世界へ  ~眼科医、一流を目指す~ 猪俣 武範

猪俣 武範 さん
ハーバード大学医学部 眼科
Schepens Eye Research Institute (SERI)

眼科医として、研究者として活躍する猪俣さんがハーバード大学に渡ったのは、母校
である順天堂大学を世界一の医学部にする、という目標があったからだった。今年、夢の
実現に向けて研究を続けながらMBA 取得を目指す、という新しいチャレンジも始めた。
猪俣さんを突き動かしているものは何なのだろうか。

組織の発展に貢献したい

学生の頃から、自分が置かれている環境に貢献したい、という意識が強かった。大学ではテニスに夢中になり、キャプテンを務めた。医学部最後の年には、全日本学生選手権大会出場、東日本医科学生総合体育大会で優勝することができた。その経験は、最後まで頑張ればできるんだ、という自信につながり、今でも猪俣さんの行動力を支えている。研究室に入ってからも、その気持ちは変わらなかった。周りを見渡してみると、研究の質、教育
の質で日本は遅れている、という声をよく耳にする。そこで猪俣さんの目標は母
校を世界一の医学部にすることになった。優秀な研究者を育て、世界中から行きたい、と思ってもらえるような大学にしたい。そこで、今世界一といわれるアメリカの環境に身を置いてみることに決めた。「アメリカと日本、本当はそんなに変わらないだろう、と言いたかったんですよね」という彼の言葉からは自分の置かれた環境に対する深い愛情が感じられる。

アメリカで得た次の目標

「研究環境は日本とあまり変わらないですよ」と話す猪俣さん。アメリカでは、角膜移植の拒絶反応を抑える働きのある制御性T 細胞の機能を解明する研究を行っている。英語の洗礼を受けながら、やはり集まってくる人の多様性が世界一の大学をつくっている、と実感した。研究者としてアカデミアで残っていくなら、マネジメントのスキルを理解していることも必要だ、とMBA の取得を次のステップに据えた。医師免許を持ちMBA の取得を目指す研究者は、現場復帰が非常に難しい。約2 年も研究現場を離れることになるからだ。それでも、猪俣さんは週末にExecutive MBA コースを活用することで、研究の現場を離れることなく、必要なマネジメントスキルを身につけることを目指している。1 つの夢を実現するために、1 歩ずつ進む。A or B の2 者選択ではなく、A and B に挑戦するのだ。

自分の一歩を信じる

生真面目な彼は、目標が夢物語で終わらないように、様々な工夫をしている。毎年、手帳に10 年後を見据えた短期、中期、長期の目標を書きつけ、年賀メールで知人に公表しているという。どんなに忙しくても月に8 ~ 10 冊は読書をする。研修医の頃から、教養は医師としての自分を成長させる、と気づき、細切れの時間を有効に使うため、いつでも本を読めるように、いつも持ち歩いているのだ。時間管理やタスク整理も研究計画を練るのと同じ。行動することで次のステップを見つけ、今の自分に必要なものを再確認することを繰り返す、ということを自然体で行っている。努力の価値をここまで信じられる人は、なかなかいない。自分の一歩一歩を確かめながら進む彼が順天堂大学を世界一の医学部にする目標を達成する日は、きっと来るに違いない。
(文・徳江 紀穂子)