生物研究で育みたい、自分だけの世界観をもつ力 中村 元紀

生物研究で育みたい、自分だけの世界観をもつ力 中村 元紀

沖縄を代表する植物の一つ「ガジュマル」は、自らの生育環境を確保するため隣接する樹木を絞め殺すことがある。そんな植物の力強さに魅せられて研究していた中村先生は、高校教師となり、地域の自然や研究発表会を活用して子どもたちに生物研究の魅力を伝えている。

生徒と一緒にとことん研究する

 生物同好会の顧問として、校内の外来種のアリの分布、県内のオオムカデの種構成など生徒が興味をもつ色々な生き物について一緒になって調べるのが中村先生の指導スタイルだ。休みの日でも、地元の動物園が行う生物勉強会へ参加したり、車で一時間の沖縄北部の山林まで、生徒と一緒に生物採取へ行ったこともある。また、研究の一環として外部での発表機会も積極的に活用している。刺激をもらうことで研究の発展を促すねらいだ。「自ら探究し学ぶ姿勢だと常に発見がある。一緒に研究する中で、生き物のふしぎを楽しむ姿を生徒に見せたい」と中村先生は語る。

世代・分野を超えた研究者との交流

 ある日、先生のもとへやってきたのが無類のムカデ好きの生徒。ムカデを手に載せ、「美しい」とため息をつく。その彼が発見したのが、種の特定できない体長20㎝のオオムカデだった。大学院で研究をしていた経験をもとに、生徒と一緒にムカデ研究の歴史を調べ、大学の研究者や昆虫好きの知人にSNSで尋ねたり、英語の論文を読みあさったりしたが、結局特定できなかった。先生は「まだ研究成果は出ていないが、若い彼の執着心や探究心を、本物の研究者に認めてもらいたい。そして、彼の自信につなげたい」と考え、リバネス主催の学会、超異分野学会・沖縄分科会での発表を生徒に勧めた。この学会の特色は、分野を超えた研究者が集まること、そして研究にかける情熱が特に評価されることだ。当日は、博士号をもつ審査員から「オオムカデが北部にしかいない理由は?土の湿度は調べてみましたか?」など的確な助言を得ることができた。また、発表後にも大学生の研究者から「おもしろいね!」と声をかけられるなど、自信につながった。

超異分野学会・沖縄分科会での発表の様子。

超異分野学会・沖縄分科会での発表の様子。

自分の世界観を作り出せる人材へ

 生き物の探究は、物事を多面的に捉えることにつながる。ムカデ一つから、土壌、水質や気候などの環境や、生き物同士のつながりを意識できるようになる。さらに、私たち人間が生きていくためには生き物の生育場所を奪い続けねばならない現代社会のジレンマや、それを科学技術で解決しようと日々奮闘する研究者など、様々なことに関心をもてるようになる。「自然を探究し、通学路の草花や虫などを見ても、独自の世界観で楽しめるようになってほしい」。変動の激しい社会の価値観に惑わされず、自分の生き方にあった物事の捉え方をし、豊かに生きていける力を育みたいと語る先生のもとには、今日も生き物好きが集まってくる。

[告知]生徒と一緒に学会発表に挑戦してみませんか?

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