学校を飛躍させる3つのステップ 工藤 誠一
Visionary School
教育現場のリーダーは今、どんな未来を見据えどんな人材を育てようとしているのか。今の子どもが大人になったとき、本当に役に立つ力とは何だろうか?取材を通して、未来をつくる教育のヒントを探る。
学校の評価は様々な側面で語られるが、とくに重視されるのは大学進学実績だろう。この面で見ると聖光学院は、ここ10年で日本で最も飛躍した学校といえる。東京大学への現役での進学者数が2004年から2014年の間で26人から57人と倍増した。この飛躍には、3つの段階があった。
「進学校」の枕詞が邪魔だった
工藤先生は、校長になって12年。学校の躍進を常に牽引してきた。「校長になってこれまで、聖光学院では3つのステップを意識して進めてきました。そして、現在は3つ目のステップを踏み出しています」と工藤先生。まず1つめが“学校を枕詞で語らない”こと。校長就任当時から進学校であった聖光学院には、かならず“進学校”という枕詞がついてまわった。しかし、これが学校全体に影響を与えてしまう。学校に関わる人達が、枕詞に適した学校であろうと、無意識に自らできることに制限をかけてしまうのだ。そこで工藤先生は、枕詞で学校を語ることを意識的にやめることで、既成概念に縛られずに挑戦できる風土をつくることを最初のステップとした。
第2のステップが“開かれた学校づくり”。その取り組みの代表例が「聖光塾」だ。聖光塾は、教員ではなく様々な企業のスタッフが講師を務める体験型の学習講座で、例年約30種類用意されている。これらから生徒は、自らの興味に応じて自由に講座を選択し参加する。そして、その内容は、正規の授業のカリキュラムとはあえて関連させていない。生徒はここで、教員以外の専門家と関わり、日々の授業だけでは得られない経験と刺激を受けることができる。様々な専門家とのふれあいは、生徒たちの知的好奇心を刺激し、学ぶことへの意欲を引き出すことにつながっているのだ。リバネスも毎年、この聖光塾で研究型の実験教室を行っている。実際の研究者と触れ合った生徒は、だれも知らないことを自分で解き明かす「研究」にワクワクし、サイエンスへの興味がさらに高まっているのがうかがえる。まさに工藤先生の第2ステップは実現しつつある。
生徒を大海原に解き放つ
最後の挑戦は“生徒を学校に縛らない”だ。聖光学院は学校内での学びの機会の拡充だけでなく、生徒が積極的に外の世界にも飛び出していける環境づくりを始めた。そのためのツールの1つとして、中学生全員へのChromebookの配布を始めた。その上で、生徒一人ひとりに学校独自のseiko.ac.jpドメインのメールアカウントも渡す予定だ。生徒は独自のアカウントを持つことで、自分の興味関心をベースに生徒や教員と新たなつながりを構築できる可能性をもつ。クラスの中に縛られていた世界を、外に広げることができるのだ。これまでも、留学や震災のボランティア、時にはアメリカでのポケモンの世界大会への参加など、生徒自らが外に出て行く挑戦を、聖光学院では積極的に応援してきた。現在始めている取り組みは生徒が挑戦する機会をさらに増やしていくだろう。「我々よりも後の世界を生きていく生徒たちには、知識だけでなく自分で考える力も必要です。いやがおうにも世界と渡り合っていかなければいけない生徒たちは、学校という枠に縛り付けるのではなく、自分から動いていく力を身につけさせたいのです」と工藤先生は話す。
これからの先生は「総合医」であれ
聖光学院においては、教員の役割も変化しつつある。「これからの先生方には、自分の知識を生徒に伝えるだけでなく、学校の内外にある様々な成長の機会を生徒にコーディネートできるようになってほしいと思っています。いわば、専門医でなく、総合医としてのあり方を築いてほしいのです。そのような先生の存在が、これからの世界へ挑戦する生徒の力を育むのです」。変化が激しく、誰も予測できない世界を生きる子どもたちが、より良く生きていくために、聖光学院の挑戦は続いていく。
聖光学院中学校高等学校
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