免疫賦活化作用を持つオリゴDNAによる治療法を探求する

免疫賦活化作用を持つオリゴDNAによる治療法を探求する

井上浄
北里大学理学部生体防御学講座 助教

「バランスの中で生きる」。学生時代から継続するワクチン研究におけるこのキーワードが、井上さんの中で重要性を増しているという。

現在井上さんが注目しているのはヘルパーT細胞のバランスだ。ヘルパーT細胞は情報伝達機能を持つタンパク質。サイトカインを産生し、免疫応答を調節する機能を持っている。また、産生するサイトカインの種類やその特徴からTh1、Th2、Th17、Tregに分類され、これらのバランスによって生体の恒常性が保たれていることが知られている。ガン末期にはこのバランスが崩れること、またバランスが崩れることでウィルス感染に対する抵抗性の低下、アレルギー疾患などの症状が現れることも報告されている。このバランスを制御することで、ガンやアレルギーの予防及び治療法を確立すること。それが、自らに課したミッションである。
このミッションへの挑戦にあたり、井上さんはオリゴDNAを武器に選んだ。CpGモチーフ(5’-purine-purine-cytosine(C)-guanine(G)-pyrimidine-pyrimidine-3’)と呼ばれる塩基配列を含むオリゴDNA(CpG-ODN)は、抗原提示細胞のサイトカイン産生や抗原提示能の増強などを誘導し,Th1による免疫応答を引き起こす(1)ことが報告されている。このことに注目し、CpG-ODNによってヘルパーT細胞のバランスを制御できれば、アレルギーの治療ができると考えた。そしてモデルマウスを用いた実験により、CpG-ODNを皮膚に塗布することでアレルギー性皮膚炎による皮膚の損傷が抑えられることを証明(2)し、CpG-ODNがアレルギー性皮膚炎の治療薬になる可能性を示唆した。
生体の根源的な反応である免疫応答に潜むバランスを制御するという壮大なミッションへの挑戦は、まだ始まったばかり。そして、2人の大学院生の指導教官としての立場も兼ねる。「研究者としても教育者としてもまだまだ駆け出しで、バランスを取るのが難しい。でも彼ら(大学院生)は仲間であり、仲間との信頼関係を通じて新たなアイディアが生まれる」と語る。井上さん自身も複数のバランスに立ち向かいながら、研究と向き合い続ける。

(1) Klinman DM, Currie D, Gursel I, Verthelyi D.
Use of CpG oligodeoxynucleotides as immune adjuvants. Immunol Rev. 2004 Jun;199:201-16. Review.
(2) Inoue J, Aramaki Y.
Suppression of skin lesions by transdermal application of CpG-oligodeoxynucleotides in NC/Nga mice, a model of human atopic dermatitis. J Immunol. 2007 Jan 1;178(1):584-91.