日本からシリコンバレーのようなベンチャーは生まれるか?

日本からシリコンバレーのようなベンチャーは生まれるか?

情報革命、まったなし!

1980年代以降、急速に発展してきた情報技術は、今やほとんどの精密機械に活用され、インターネットの普及により世界中がつながっている。情報システムの発達により企業のグローバル化は促進され、私たちが手にできる情報量は飛躍的に増加した。昨年から今年にかけてエジプトでFacebookやTwitterなどのソーシャルメディアを起爆剤に革命が起こり、東日本大震災では情報収集と伝播にどんなメディアにも勝る威力を発揮したことは、特にここ数年の世界中での情報技術の浸透を象徴している。人々は世界中の人といつでもリアルタイムでつながり、企業は新しいビジネスを生み出すことができるようになった。今や情報技術があらゆる生活シーンに入り込む時代が到来している。

新しい技術とビジネスが生まれる町

 この急速な変化を生み出し、時代を牽引する企業を次々と生み出している地域がシリコンバレーだ。シリコンバレーは、アメリカカリフォルニア州北部のサンフランシスコ・ベイエリアの南部にあるサンタクララバレー周辺地域の俗称。航空宇宙などの防衛産業から始まり、半導体、PC、インターネット産業と、時代とともに姿を変えて次々とハイテク産業を形成するベンチャーが生み出される新技術・新ビジネスの聖地だ。スタンフォードなどの大学を中心に企業が集まり、大学発の技術をベースに新しい企業が次々と生まれる仕組みは世界中から注目されている。 日本でもこのシリコンバレーのような集積地を作る構想が各地でなされているが、未だに世界規模の展開に成功している企業は出ていない。しかし、国内企業の世界を視野に入れた独自サービスは生まれつつある。情報化社会の未来を創るシリコンバレーとはどんなところなのか。はたして日本からシリコンバレーのような世界で活躍する企業は生まれるのか。数年という短い期間で一気に世界規模へと成長することができるIT産業において、最先端の情報科学を担う研究者、将来の発展を期待されるユニークな情報系企業の経営者が答えてくれた。

シリコンバレーでは大学を中心に技術のシーズが生まれ、起業するケースが多く見られる。のため、大学と企業との関わりは非常に重要視されている。日本の大学で研究する研究者は、日本とシリコンバレーとの違いをどう見ているのか?その中で活躍できる研究者になるために、若手はどう行動していけばよいのか。情報・工学系の研究者10名に、それぞれのメッセージをもらった。

独自のアイデアを追求せよ!

会社を興すなら二番煎じでは意味がない。他社とは違う発想力が求められる。そのためには常に新しい情報を調べ、研究していく敏速さが必要です。今の学生は自分のやりたいことを重視して仕事を選ぶ人が増えています。情報の分野は技術を事業に起こしやすいこともあり、ベンチャーを選ぶ、起業をする人は多いように思います。学会の研究発表などで外部の人と出会い、新しいアイデアをもらったり、人脈を掴んだりする人が多いです。

東京理科大学 情報科学科 武田 正之 教授

多様な環境に身を置くことで新たな発想を生み出せ

シリコンバレーでは、はじめから多国籍の人々が集まり、自分にないものを組み合わせてサービスを創り出すため、最初から世界を見据えたサービスを開発できます。日本の学生は知識や能力的には海外の学生にも負けていません。研究室の中に閉じこもらず、人種・性別・専門性・所属など、様々なバックグラウンドを持った人と交流することで、世の中の需要と供給を知ることができ、世界で勝負できるサービスを生み出せると思います。

東京工業大学 情報理工学研究科 瀬々 潤 准教授

自ら殻を割っていく学生を育てること

日本にシリコンバレーができるということは、ベンチャー企業的な勢いのある組織が100、200とポンポン生まれる土壌ができて初めてなせることでしょう。数学科はその領域的に保守的なタイプが多く、自ら殻を破っていく学生は多くありません。育成するには先輩が後輩に向けて自らの経験を語り、魅力を伝えるという過程が必要です。研究ですぐ世界につながる領域でもあるので海外アレルギーはありません。可能性はあるはずです。

東京大学大学院 数理科学研究科 一井 信吾 准教授

「見えない」研究にも敬意を払おう

実用化研究だけでなく基礎理論の研究も非常に重要です。特に我が国では自動車やロボットなどの基礎技術である機械や電気といったモノと直結した研究が盛んであり、その裏にある「見えない」理論研究には敬意が払われていません。電気や機械などを縦糸とすると、制御の分野で目には見えない「理論」を構築し、横糸とすることで初めて製品が成り立ちます。情報処理も同じく横糸の学問だと思います。工学研究の世界で上に立つ人たちがその重要性を発信できるようになることが大事だと思います。

慶應義塾大学 理工学部 足立 修一 教授

世界一を目指せ!

日本から本当に新しいものが生まれているだろうか。過去日本企業がグローバルに展開できなかったのは、国内で一番でも世界で一番ではなかったからではないか。海を越えられないのはビジネスのみではない。Google等に見るグレーゾーンに対する姿勢の違いのようなやってしまえ、という姿勢は日本の教育課程で学ぶ機会がないことが大きな違いをもたらしているのでは。

日本電信電話株式会社 コミュニケーション科学基礎研究所上席特別研究員
東京工業大学大学院 総合理工学研究科 柏野 牧夫 連携教授

ごちゃごちゃ考えずに欲に従って動き、嗅覚を磨こう

日本人は欲求を素直に発信できる人が多い。また、そうした場合にだけ受け入れられるように思う。このような表現が上手な人を何人も知っています。些細なことでも、「自分が考えたこと」を人に伝え、世にリリースするという経験を積むことで、イノベーションの種を察知する嗅覚を磨いてきたのが国際的に活躍してきた日本人という誇り高い民族だが、それを知らずに日本人が負けているように勘違いしている若者が今もいる。そんな劣等感に迷う必要はない。自分のネタなら、耳を貸す人は必ずいる。もちろん、全員が最先端を走る必要はない。日本人は世界のリーダーとなる資質を持つ人が多いが、フォロワーとしてリーダーと呼応して世界を席巻する姿勢も大切です。

東京大学 工学系研究科 大澤 幸生 教授

日本に合ったベンチャーに期待

シリコンバレーのようなベンチャーをやりたければ、シリコンバレーに行ってやるのが一番だと思います。キャリアに対する考え方、資金調達に対する考え方、技術開発に対する考え方、いろいろ違いがあるので、日本に合ったやり方を模索することに可能性を感じます。たとえば、社内ベンチャーもよいのでは。技術系の場合なら、生真面目に技術だけやるのでなく、手堅く利益の上がる日銭商いを加味するなど、二枚腰のベンチャーに期待します。

東京理科大学 理学部 梅村 和夫 准教授

研究分野の壁を越えた連携を

私たちが専門としているユーザーインターフェイスの領域では、新しい視点を作り込むアイデアと、それをハード・ソフトの両方を駆使して実現する方法を見つけ出す力が不可欠です。元々日本人は、アイデアを出すことが得意でない人が多い。だからこそ、研究分野の壁を越えた活動が必要です。私たち自身は、ユーザーインターフェイスを利用し、モノづくりのプロセスをデザインするような試みをしていきたいと思っています。

お茶の水女子大学 アカデミックプロダクション 塚田 浩二 特任助教
お茶の水女子大学 アカデミックプロダクション 神原 啓介 特任リサーチフェロー

失敗を恐れず製品にまでつなげる実行力を鍛えよう

アイデアを出す力は欧米に負けていないと思いますが、それを製品にして儲けよう、と考える力が弱い。一発当てるにはどうしたらよいかを考える訓練をしてないからですね。欧米は「一発当ててやれ思考」なのでアイデアが100出てきたら数個はビジネスになるでしょう。日本ではお金の回りも悪い。ベンチャーへの資金投入はほとんどが融資でエンジェルが少ない。失敗できないので大きな戦略に出られません。これらの思考やエンジェルのカルチャーを醸成したいですね。

東京大学工学系研究科 中須賀 真一 教授

世界は動けばせまくなる

アメリカが優れている部分は20 年後位に世界を引っ張っていくような人材を集めていること。協調と競争によりお互いが切磋琢磨していく環境。人種や文化の壁を超え、要求を口に出し交渉する。この経験が、後に世界から声をかけられるような人材を輩出している。一方最近は日本人の留学生ネットワークが拡大しており、世界規模へと成長した。とにかく動き、突っ走り、諦めない彼らの活動にベンチャースピリットは確実に根づいている。

慶應義塾大学 理工学部 伊藤 公平 教授