サイエンスコミュニケーションで輝くために~資生堂のサイエンスコミュニケーターが語る~
株式会社資生堂 学術室 蓑田 裕美さん
株式会社資生堂で学術広報を担当。農学修士。2011 年から現職。週末のボランティアでは、2007 年からサイエンスカフェWEcafe を主宰。
資生堂の研究所で学術広報や女性向け研究助成制度「資生堂女性研究者サイエンスグラント」の運営をしている蓑田裕美さん。学生時代に受講した国立科学博物館(以下科博)のサイエンスコミュニケータ養成講座での経験をフルに活かし、自身で立ち上げたボランティアでのサイエンスカフェ運営や、社内での学術広報活動を行っている。しかし当の本人は「サイエンスコミュニケーターという職業は存在しない」ときっぱり言う。
ビジネスのわかる研究者になりたい
「就職活動のときは技術職なのに『研究したくない』と言って面接官をびっくりさせてしまいました」。もともと「伝える」ことに興味を持ち、学部生での就職活動で研究所広報という仕事の存在を
知り、「理系という強みを活かしたコミュニケーションの仕事」があることを知った。「研究をもっと知らなくては」との想いで修士課程に進む。日本でサイエンスコミュニケーション推進活動が始まって約10年、大学の中では浸透していきているが、一般の人たちには未知の活動。修士での就職活動でもサイエンスコミュニケーションという言葉に企業の反応はなかった。しかし、「研究職と事務職をつなぐ仕事がしたい」「ビジネスのわかる研究者になりたい」と話すと多くの企業から共感を得た。その1つが資生堂だった。
社内に新風を吹かせる
学芸員や研究所の広報は任期つきの狭き門が多い中、蓑田さんは民間企業での活動の道を選んだ。「すぐにぴったりの職にはつけないけど、サイエンスコミュニケーターのスキルを活かせる場所はた
くさんあります」。資生堂では2年間研究職に就き、1年前に学術広報を担当する学術室へ異動した。そこで女性研究者のための助成制度運営を任された蓑田さんはサイエンスグラント受賞者を招いて
のサイエンスカフェを始めた。「もともと当社には、研究助成を通じて科学界の未来を支えようと考える研究員が集まっているので、みな取り組みに共感し、積極的に協力してくれました」。資生堂で
は彼女の存在を通じて研究所のスタッフにもサイエンスコミュニケーションが浸透し始めている。
サイエンスコミュニケーションという職能を活かす
「科博の養成講座で、サイエンスコミュニケーションは“職業”ではなく“職能”だと言われたことが印象的です」。講座では90分×72コマの中で、チームでの企画立案や外部資金獲得など、「伝える」以外のノウハウも身につけた。独りよがりの企画ではないか、採算性はあるか、など経営やビジネスの視点を鍛えられたことが今の活動の基礎になっている。「コアになるスキルの有無が仕事にできるかの鍵になります」と蓑田さんは言う。自身の運営する団体や資生堂の仕事の中でデザイナー、司会者、ビジネスマンなどいくつもの顔を持つ。美術部で絵のセンスを磨き、3つの科学コミュニケータ養成講座とラジオDJ講座に通い、身につけた顔だ。これからサイエンスコミュニケーター
を目指す人へ。社会を知り、自分の強みをつくろう。彼女のような柔軟な発想とアントレプレナーシップを持ってこそ、サイエンスコミュニケーターの未来は開ける。