有田焼の伝統技法で日本中に再び光を灯す

有田焼の伝統技法で日本中に再び光を灯す

明りを消した仄暗い室内で、非常用標識が柔らかな緑色の光を灯し始める。素材に使用されているのは、400年以上の伝統を持つ佐賀県有田焼の磁器。蓄光性能を持つことで自然エネルギーを循環利用できる建材「ルナウェア®」だ。「蓄光」×「有田焼」の誕生により、衰退する日本の伝統技法に、一筋の光が差し込んだ。

有田焼が日本中に再登場

岩本泰典 1962 年大阪市生まれ。大阪府立城東工業高校卒。ユニットバスの工事職人を経て、86 年に自動車部品の検査代行 会社を創業。2004 年には省エネ製品製造販売会社「コドモエナジー」を設立

ルナウェアは、有田焼の上絵付け 技術に蓄光顔料などを組み合わせた 磁器建材。特徴は時間発光できる蓄光性能と高い耐久性能だ。秘密は釉薬と呼ばれる表面を覆うガラス質の部分にある。1000°C以上で焼き上げた磁器の上に厚さ2ミリの釉薬層などをコーディングし、再度焼き上げて製造する。釉薬に特殊な蓄光材料を使うことで、耐摩耗性、耐水性、酸やアルカリにも強い有田焼に新たな機能性を持たせたのだ。地下鉄の非常用標識やイルミネーションの素材として活用され、2012年度モノづくり日本大賞の内閣総理大臣賞を受賞した。

工芸品から工業製品へ

暗闇で光るルナウェア
開発のきっかけは、有田焼に蓄光させる技法を確立したものの、量産化に課題を抱えていた窯元を紹介されたことだった。「電気を使わずに、自分の手の中でタイルが光ったことにとても感動しました。この技術を世の中に出そう、そして有田の活性化に貢献しようと心に決めたんです」。そこから、毎週有田と大阪を往復する日々が続いた。現地に工場を作り、有田焼工業組合の協力も得た。「工芸品ならば一品一品の違いが価値になる。でも、工業製品では品質を保つことがとても重要なんです」。試行錯誤を繰り返しながら、一定のクオリティを保つ製造体制を構築していった。高い製造技術を活用することで、「工芸品」を「工業製品」へ変えることに成功した。

想いと行動が人を動かす

現在は、産業技術総合研究所関西センターと連携し、釉薬の蓄光メカニズムについての研究も開始し、それを手伝ってくれるような理工系の若手研究者も募集している。「新しい人と出会うたびに、新しい発見や学びがあって、そこから新しいビジネスが生まれる。だからこそ歳の今でも私は学び続けています。学生たちにも、研究室の外でいろいろな人と出会うことで視野を広げて成長してほしいですね」。己の信念に従い、岩本さん、コドモエナジー、そして伝統技法はこれからも進化し続けていく。
(文長谷川和宏)

クリーンなエネルギー環境で未来を創るコドモエナジー株式会社