最先端の技術で、エンターテイメントの一歩先へ
シリコンスタジオ株式会社 R&D統括本部 田村尚希さん
東京大学大学院新領域創成科学研究科複雑理工学専攻修士課程修了後、三菱電機株式会社の海外研究拠点であるMERL(アメリカ合衆国ボストン)でインターンを経験。2007 年、シリコンスタジオ株式会社に入社。現在も大学院・インターン時代と同じくリアルタイムグラフィックス技術の研究および製品開発に従事。
「EnterNext」のスローガンを掲げるシリコンスタジオ株式会社は、ゲームに欠かせないレンダリング技術、ゲームエンジンなどの開発を行う企業だ。社内では研究室さながらに技術者が仕事の合間に論文を読んだり、研究発表を行ったりと、最先端のテクノロジーに触れる機会を楽しみながら、新しいサービスを生み出している。ソフトウェアとハードウェア、アカデミアと産業界をつなぐシリコンスタジオは、二重の意味でミドルウェア企業といえるだろう。
多様化するゲーム開発の要
PlayStation®3、Xbox 360®、NINTENDO DS、PC、アーケード筺(きょう)体(たい)……多種多様なゲームハードウェアが存在する中、各機種に対応したソフトウェア開発がビジネス上で重要になっている。しかし、グラフィック、サウンド、ネットワークなど、様々な要素技術開発がそれぞれの機種ごとに必要となり、ひとつひとつ対応させようとすると膨大な人的・時間的コストが必要となる。
そこで各社が利用しているのが、ミドルウェアやゲームエンジンだ。ゲームエンジンやミドルウェアには、ハード間の差異を吸収することでマルチプラットフォーム開発を効率化できたり、高い技術力が求められる表現を比較的に容易に実現できたりといったメリットがあるため、近年では導入するゲーム開発会社が増えている。欧米企業が開発したものが多い中、日本企業の開発スタイルに合わせた純国産のミドルウェア開発を進めるのがシリコンスタジオだ。
常に最新の技術を取り入れる
「エンターテイメントのためというより、リサーチが好きで新しいテクノロジーを試してみたくなっちゃうんですよね」と語るのは、シリコンスタジオのリサーチ&デベロプメント部に所属する田村さん。建築学科でCGを用いたデザインを手がけるうちにCGにのめり込み、CGを研究できる大学院に移り、院生時代に交流を持ったシリコンスタジオにそのまま入社した。入社以前から、論文として発表された技術の実装を請け負っていたという。研究者肌の人材が多く集まる同社では、技術者がすきま時間を見つけて論文を読み、最先端の技術に基づくアイデアを実装していく風土がある。「仕事
だからというより、楽しいからやっているという感覚ですね」と田村さんが語るように、それぞれが常に新しい技術情報を追い掛けているのだ。日々の業務をこなしつつ、自分が興味のある分野を勉強して、それがいつか製品開発に役立っていければいい、と考えている。
アカデミアとビジネスも橋渡しするミドルウェア
ビジネスでは限られたリソースや時間の中で開発することが必要なため、目先の技術改善に目が行きがちである。製品開発もユーザーのニーズを拾いながらカスタマイズしていく部分が大きい。一方で、アカデミアでの研究は新規性が求められ、最終製品に落とすことは重要視されない。同社の研究風土は、このギャップを埋める役割も果たしている。ユーザーに新鮮な驚きを与え続けることが宿命付けられたエンターテイメント業界の中で、常に最先端の技術を知り、試行錯誤してそれを取り入れ、技術に裏付けられた製品を生み出すことが重要だと考えているからだ。毎年、ゲーム開発者向けの学会で研究発表を行い、交流の機会を作っているのもそのため。すぐに役立つわけでないけれど、ゲーム開発を進める他の技術者の刺激となり、アカデミアの知恵が徐々に現場に浸透していく。そうした交流が、技術を前に進める原動力となるのだ。
(文 環野真理子)