主観的興奮のススメ

主観的興奮のススメ

北川 拓也 さん 大手インターネットサービス会社

高校卒業後にハーバード大学へ留学した北川拓也さんは、Ph.D. 取得までに22 報の論文著者となり、アカデミア期待の若手研究者となった。しかし、理論物理研究の先に彼が向かったのは大手のインターネット・サービス企業だ。常に自分自身が最も興奮する場所へ。先の見える人生なんてつまらない。

つまり、僕的に興奮するか

小さいときから「人生つまらない」と文句を言っているタイプだった。引っ越しをしたこともあって、友達との遊び方がわからず、1 人で本ばかり読んでいる時期もあった。人生の楽しみ方がわからず、暇をもてあましていた。中学で進学校に入り、真剣に人生の楽しみ方を追い求め始めたのが北川さんの1 つの転機となる。何の役に立つのかわからない授業。それらの授業を主観的に見て、「日本史はこれだから面白い、国語のこういうところは面白くない」と自分で捕らえなおした。「なぜこの学問は面白いのか」と考え直すことで物事の意味が身近に感じられるようになった。「自分の意見を持てれば、なんでも楽しい。つまりは僕的に興奮するかどうかが大事なんだ」。シンプルな答えを得た。

知的興奮をひたすら追求する

高校卒業後にハーバード大学へ進学。そこで、世界最高の学問環境は北川さんを理論物理の研究の世界へ誘った。大学院在学中は、量子力学の性質を使って新しいものづくりの枠組みを提唱し、世界で誰も見ていない世界を構築する仕事に没頭した。「学問は解く問題を設定するのが大事なんです。解く事が大事なんじゃ
ない」ひたすら魅力的な問いを立て、突き進んだ結果、発表した論文は大学院時代だけで22 報。「自分の興奮すること、思ったことを、ただやるんです」というように、研究を始める前に調べる先行研究も、北川さんはあまり確かめなかった。「他人が同じような研究をしているかなんてどうでもいい。違う観点でやっているのだから、最後までいけば大体違った結果がでます」自分の頭1 つで新しいものを生み出せるという圧倒的興奮の中で、知的好奇心という欲望をひたすら満足させていった。しかし、博士取得を前に、物理学では自身の欲望を満たせなくなってきたことに気づく。物理の世界は大体イメージできる。それに教授になった自分の姿もイメージできる。でも、自分は「自分自身が想像できないこと」にぶちあたらないと興奮できない。自然界の理解を進めた男は、より深い興味として、人の世界を理解したいと思うようになった。

人を幸せにするのは
やはり欲望だと思うんです

学問で得られる知的興奮以外にも、たとえば、食欲、性欲、睡眠欲など、人間の欲望は興奮に満ち溢れている。「人類の歴史は欲望の発見、再発見の歴史だと思うんです。たとえば宗教は、苦しみに満ちた世界で幸せを見出すための、1 つの大きなイノベーションじゃないかな」。わかりやすい欲望から隠れた欲望まで理解できたら、きっと幸せについてもっと理解できるはず、そう北川さんは考えた。「物理は僕がいなくても進む。だけど、人類がより幸せになるためのサービスを作り上げる、そんな仕事は僕しかできない」。そんな北川さんの野望に共感してくれたのは日本を牽引する大手インターネットサービス会社だ。データサイエンスの手法で顧客の本当に求めているものを見つけ、それをサービス化することを狙っている。人類の深い欲望を知りつくした先にある、人がより幸福になるための何かを北川さんは追い求めている。(文・武田 隆太)