異分子の存在が、組織の強みとなる

異分子の存在が、組織の強みとなる

深中メッキ工業株式会社
代表取締役 深田 稔 さん

5 μm から10 μm。電気めっきの薄さには、従来から定説とされる限界があった。その限界を超え、均一な3 μmのめっきを実現した会社が墨田区にある。深中メッキ工業がその技術を実現した裏には、「異分子」の存在があった。

めっきの技術的課題

めっきは、日用品分野からハイテク分野に至るまで幅広い製品に使用されている重要な技術だ。そもそもめっきとは、金属や非金属の表面に金属を被覆する技術。外観をよく見せるための「装飾めっき」と、素材に無い電気伝導性や耐蝕性などの機能や性質を付加する「機能めっき」の2 種類がある。また、めっきを施す方法にも大きく2種類ある。電気を用いない「無電解めっき」は均一な膜厚が得られるが、複雑な前処理や排水処理が不可欠だ。一方で、電気を使う「電気めっき」は、安価で大量に行うことができるため工業製品へ多く採用されているが、めっきの膜厚を薄く、均一に施すのが難しいことが技術的課題だった。

単純な工夫も、積み重ねで真似できない技術となる

「めっきはたとえるなら化粧みたいなもの。化粧するときには化粧ノリを良くするために下地を使って肌の凹凸を均しますよね。同じように3 μ m のめっきを実現するためには前処理が重要なんです」。深中メッキでは、改良に改良を重ねた前処理技術を持っている。特殊な溶液につけて処理をすることで表面の微細な凹凸がなくなるため、均一なめっきを施すことができるのだ。

「我々は技術を特許化しません。なぜなら私たちの技術は、やり方を知れば誰にでも真似できてしまう工夫の組み合わせだからです」。単純な工夫とはいえ、誰も思いつかない工夫をいくつも組み合わせ、誰にも真似できない高度なめっき技術を実現している。

自分が「異分子」になれる場所へ

大学では経済学を専攻し、卒業後は菓子メーカーに勤めていた深田社長。先代社長であった父親が亡くなり、家業を継いだ。人の口に入る製品を扱っていた前職に比べ、当時の深中メッキの製品や技術に対する意識の低さに違和感を覚えた。そこからより良いめっき技術の開発が始まった。「お菓子会社からめっき会社に移った当時の私のように、技術の発展には異分子の存在が必要不可欠です。私を含めこの会社には文系の社員がほとんど。私たちとは違う視点の理系人材がいれば、今までにはない問題意識から新しい工夫が生まれるはずです」。

自分が異分子になる場所。そこに飛び込むのは勇気がいるに違いない。しかしそういう場所だからこそ、自分の経験が活きる可能性がある。世界から注目される墨田区の職人が、理系人材という異分子を今、求めている。(文・齋藤 想聖)

|深田 稔 さん プロフィール|

昭和63 年、獨協大学経済学部経済学科卒業。同年明治製菓株式会社入社。平成3年退社。その後深中メッキ工業株式会社入社現在に至る。早稲田大学招聘研究員札幌学院大学客員教授。