【博士の哲学】Venturing into the Unknown

【博士の哲学】Venturing into the Unknown

Jefferey Karp, Ph.D. 武田 隆太, Ph.D.

異なるカルチャーの交差点にイノベーションがある。よくいわれる話だが異分野の人材を集めることすら容易いことではない。今回は、イノベーションに拘り続ける2 人に対談をしてもらった。1 人はヘルスケア分野において35 歳以下のトップイノベータと称される、ハーバード大学のジェフリー・カープ氏。もう1 人は「性を表通りに出す」をキーワードにリバネス研究費TENGA 賞をプロデュースした、Leave a Nest America Inc. Presidentの武田。お互いのイノベーションに対する考え方を比べてみよう。

モチベーションの在り処 問題解決への情熱

武田 カープさんは若くして数多くの業績を残されていますね。やりたいことが明確になったのはいつ頃ですか?

カープ 私は紆余曲折、結構時間がかかったタイプです。元々は医師志望でしたので大学では生物学を専攻しました。でも、授業のほとんどは知識をインプットするもので、問題解決するような授業が少ないと感じたのです。

武田 確かに生物学の授業は知識を与えるタイプのものが多いですね。問題解決に興味があるのですか?

カープ そう気がついたのです。考えてみれば高校の頃から生物学の他に数学、物理など問題解決を求める科目は好きでした。それで専攻を化学工学に変更しました。

武田 僕は自然現象の裏にある根本的なルールに興味があって分子生物学の大学院プログラムに進んだという経緯があります。化学工学はフィットしましたか?

カープ 問題解決のための技法や手段を学ぶのが本当に楽しかったですね。でも元々興味を持っていた医学からは遠いと感じました。そこで、問題解決の方法論を医学に活かす道を探すため、人工細胞や人工臓器に関するコースを履修しました。大学院もその後、より深く医学研究のトレーニングを受けたるためにバイオメディカル・エンジニアリング分野の大学院に進学しました。

武田 僕は好奇心を突き詰めるために課題解決の方法を身につけたと言ったほうがいいですね。問題解決の方法を学んだところは一緒ですが、学ぶモチベーションが違いますね。

問題解決への強いこだわり

武田 なぜそこまで問題解決に情熱を持っているのでしょうか?

カープ チャレンジングであると同時に必ず解決方法があるところに魅力を感じます。大きな問題を扱うときは、まず小さな構成要素にブレークダウンする方法論を身につける。そうすれば大きすぎる問題も、難しすぎる問題もなくなる。人類が解決すべき課題は無数にありますから。特に医学においては、問題解決によって病に苦しむ患者さんの一生に大きな貢献をすることができる。

武田 カープさんはいわゆる応用研究をなさっていますが、なぜ産業界には進まなかったのでしょうか?

カープ 実際悩みました。ポスドク3年目にボストンのベンチャー企業の面接を受けました。非常に魅力的な会社で、人材もテクノロジーも申し分ないレベルでした。ただ会社に所属すると、ある1つのプロダクトの開発に傾注する必要があるということに気づいたんです。逆にアカデミアでは、異なる複数のテクノロジーについて同時に研究開発を進めることができる。だからアカデミアを選びました。

武田 僕はアカデミックな好奇心には満足したところがあって産業界に移りました。好奇心が多岐にわたるのでいろんな目標を作っていますが、たとえば性を正しく学ぶ機会を多くつくるという新しい目標を作り、仲間を集めています。先日、リバネス研究費TENGA 賞というかたちで1 つ実現できました。いろんなテーマが文理問わず日本の研究者型集まってきたのは感動でした。産業界ではビジネスが成り立てばイノベーションにまつわる様々なアプローチができるんだと感じています。

異分野の知識を集結させ イノベーションを起こす

武田 僕はイノベーティブであろうとして、自分の好奇心を満足させてくれる人に対して貪欲に接しています。その中で僕が面白いと思ったことを面白いと思ってくれる仲間が周りに集まってきて、新しいことを起こす原動力となります。カープさんはイノベーティブであるためにどうされていますか?

カープ チームで問題解決にあたることです。私のラボでは機械工学のエンジニア、化学者、医師など、各メンバーの専門分野が多岐にわたります。多分野の研究者がシナジーを起こすことで、クリエイティブな仕事ができるのです。

武田 僕たちはフィールドは違いますが、イノベーティブになるための方法論は非常に似ていますね。では最後に研究者を目指す学生たちにアドバイスをいただけますか。

カープ 3つあります。第1に素晴らしいメンターを見つけること。成功している人から意見をもらうことは、非常に重要です。第2に自分の強みと弱みを把握すること。人よりよくできることと改善が必要なところの両面を知ることが大切です。最後に、失敗を恐れないこと。失敗は向上と創造の機会を創出します。実験に失敗はつきものですが、その過程でどのようにしてクリエイティブな解決策を生み出すかを学びます。読者の皆さんにも研究者としての自信を深め、活躍をしてほしいと願っています。(取材・構成 前田 里美)

Jeffrey Karp, Ph.D.

Associate Professor at Harvard Medical School and Co-Director of the Center for Regenerative Therapeutics at the Brigham and Women’s Hospital. He is also Principal Faculty at the Harvard Stem Cell Institute and is Affi liate Faculty at MIT through the HST program. In 2004 he completed a Ph.D. program in Chemical and Biomedical Engineering in University of Toronto.

武田 隆太 , Ph.D.

The Ohio State University. Molecular Cellular, and Developmental Biology program. 専門はRNA Biology、分子生物学。2012 年5 月に株式会社リバネスに入社。インターンの現場やアメリカでのインターン研修など、大学生・大学院生の人材育成を担当している。