理系人材が町工場を加速させる
2013年3月、墨田区はリバネスと連携し、研究者や起業家、企業関係者、学生など、様々な立場の人々を集めた「超異分野学会」を開催した。
3000社の町工場が操業する墨田区で、日本のモノづくり復活を夢見る2人の仕掛け人が語った。
きっかけ1つで町工場は動き出す
- 高野
- 超異分野学会は本当に面白かったですね。町工場の職人が普段接点のない研究者や起業家、学生と熱心に議論していたのは印象的でした。
- 丸
- 研究者でも分野が違えばお互いの研究内容は知らないことが多いので、町工場の方にとってはさらに新鮮だったと思います。元々、超異分野学会は、分野が異なる研究者同士が研究内容をお互いに「わかりやすく伝える」ことを通して新しい連携を生み出す目的で、我々が10年前から行っている取り組みです。今年は町工場の方々が加わったことで、より多様性が生まれました。
- 高野
- このような会は初めてでしたが、何か新しいことが始まりそうな予感がしました。
- 丸
- 実際、今回の出会いから町工場に仕事を依頼する方がいらっしゃったみたいです。そういえば、今回は提案から実施まで3か月でした。行政のスピード感では普通は難しいです。よく実施まで持って行けましたよね。
- 高野
- ちょうど、墨田区の町工場と外部の方々を結びつけることが新しい町工場の発展につながると考えていたのです。そこで研究者との交流を推進してみてはどうか?というご提案をいただいて、まずはやってみようという話になりました。
- 丸
- 研究者は「新しいこと」をやるのが仕事です。その考え方や姿勢は町工場にも参考にできるところがあると思います。
設計図がないものを作れる町
- 高野
- 元々、墨田区の町工場は、明治の時代、武家屋敷の跡地に近代工業が興り手先の器用な職人たちが周りに集まったことから始まりました。大正から昭和にかけて時計やニット、カバンなどの日用品に対するニーズが高まり、多品種かつ小ロットのものづくりを行うことで発展してきたのです。墨田区と同じく町工場で有名な大田区は、大手メーカーの下請けとして大量の部品製造を行う町工場が多いので、同じ町工場といっても強みや性質は違います。
- 丸
- 川崎など工業地域に近い大田区と、日本橋などの日用品卸の多い地域に近い墨田区では町工場に求められる機能が違うのですね。
- 高野
- そうです。しかし、大量生産・大量消費の時代が到来すると区内には試作と多種少量生産、本社の機能だけを残し、工場を区外に移して拡張する企業が増えました。それでも残った町工場は、試作への特化、短納期の実現、高度な技術という3つを強みとして生き残りをかけて操業しています。設計図がない状態で話を持っていってもスピード感を持って試作する高い技術があるのです。しかしながら製造の中心が海外になっている今日、墨田のモノづくりはある意味オーバースペック。だからこそ、新しい発想でモノづくりを行う必要があるのです。
文化としてのモノづくりを継承するために
- 丸
- 墨田区では産業はもちろん、文化としてのモノづくりも残そうとしている点も面白いですね。
- 高野
- ありがとうございます。現在墨田区では「すみだモダン」と銘打った地域ブランド戦略を推進しています。墨田の想いを伝えられる商品や飲食店メニューをブランド認証したり、町工場とクリエーターの連携を推進したりする中で、墨田のモノづくり文化を新しい価値へと高めようとしています。さらに、墨田の歴史ある史跡や文化施設に並んでこれまで観光資源とは捉えられていなかった町工場や工房をモノづくり体験の場として見せることにより、観光の拠点としていきたいと考えています。
- 丸
- 墨田区は長い歴史や文化の積み上げがある地域だからこそ、いいブランディングができると思います。スカイツリーという最先端のモノに惹かれて人が集まっている今、墨田区の本当の魅力を伝えていくプロジェクトはとてもやりがいのある仕事になりますね。
町工場に最先端の一色を加える
- 丸
- 以前、新潟で植物工場をテーマに新しい産業を考えるプログラムを行った際にも、地元企業の方がたくさん参加していました。植物工場がなぜ今必要とされているのかを知り、自分たちがどんな貢献ができるか、アイデアがたくさん生まれていましたね。
- 高野
- 墨田区にはスカイツリーができました。あれはまさに最先端技術の塊。町工場の方々と様々な分野の方が交流する中で新しいアイデアが生まれ、スカイツリーが町工場復権の狼煙となる日を夢見ています。
- 丸
- やはり「最先端」には人を集める力がある。集まった多様な人たちが、新しいものを生んでいくのだと思います。
- 高野
- この3月に策定した墨田区の産業振興マスタープランのキャッチコピーは「StayFab—楽しくあれ—」です。楽しくあり続けるためには、新しいコトを興さなければなりません。そのために今後もいろいろな方を巻き込みながら、自らも楽しんで墨田のモノづくりを発展させていきたいと思います。