バーチャルに触れる未来が見えてきた 株式会社ミライセンス

バーチャルに触れる未来が見えてきた 株式会社ミライセンス

コファウンダー・代表取締役 香田夏雄さん
ファウンダ—・最高技術顧問 博士(工学)
独立行政法人産業技術総合研究所主任研究員 中村則雄さん

バーチャル・リアリティ(VR)によりコンピュータ内の世界と実世界がつながり、SFのようにリアルとバーチャルの区別がつかなくなる世界も近いのでは? と思える時代になってきている。しかし、映像が立体的になっても、物理的に触ることができないために、VRを使ったコミュニケーションはうまくいかないのが現状である。それらを解決するための触覚技術が、世界に先駆けて日本で誕生し、話題を呼んでいる。

フィードバックがないVRの限界

センサやKinect、Leap Motionのような画像認識技術の向上により、コンピュータ上にリアルタイムに動きをキャプチャリングする方法が生まれ、VR技術は高視野のヘッドマウントディスプレイを通じて実際のコンピュータ上の世界に没入する感覚を得るところまで発達してきた。しかし、視覚的なリアルさはかなり高まってきたが、あくまで「見ている」にすぎず、コンピュータ上に表現された世界を体感することはできない。そこで期待されているのが触力覚技術(Haptics Technology)である。触力覚技術とは、力、振動、動きにより触感・感触のフィードバックを得るテクノロジーである。掴んでいる感覚、押されている感覚、ザラザラした感覚などを擬似的に再現することで、そこにある「モノ」をリアルに感じることができるのだ。例としては、画面と連動して動作し震えたりするゲーム機やアミューズメントパークのアトラクションなどがあげられる。しかし現状の技術はあくまで振動の再現にとどまり、リアルな触感・感触の再現はできていない。最近は、超音波や、圧電素子、ワイヤーによって触感を実現する方法も開発され始めているが、小さな力しか再現できなかったり、大がかかりな装置を取り付けたりと、実用化の面で課題が多い。

力覚を体験している様子

力覚を体験している様子

脳を騙して触感を生み出す

そんな中、産業技術総合研究所の中村則雄さんが発明した、3D触力覚技術は群を抜いてリアルな感覚を生み出している。中村さんは、色の三原色と同じように触覚も同様に3つの要素に分解することを見出し、それを振動で再現させることに成功したのだ。触覚の「三原触」は「圧覚」「触覚」「力覚」の3つである。「圧覚」は豆腐に触ると柔らかく感じ、石に触ると固く感じるような接触した対象物の固さを感じる感覚だ。「触覚」は手の皮膚が感じる、つるつる、ざらざら感のような表面の凹凸を感じる感覚である。「力覚」は、風があたりぐーっと押されたり、ゴムをギューッと引っ張ってぷちっと切れたりするような、手応え(力)の感覚だ。中村さんの研究チームは、特別に設計したアクチュエータに特殊なアルゴリズムを組合わせることにより、1つのデバイスで同時に三原触を再現することに成功した。そして、2014年4月、中村さんはこの技術を広めるために、香田さんとともに産総研技術移転ベンチャーである株式会社ミライセンスを起業した。

心理学的アプローチから生まれたオンリーワン技術

「ポイントは物理的な振動を工夫しただけでなく、人間の触覚が脳でどのように処理されているかを考慮し、錯視のように脳を騙して実際よりかなり小さい力でもリアルな触感・感触を再現できる方法を見つけたことです。物理的なアプローチだけではなく、心理学的なアプローチの方が重要だったのです」と中村さんは語る。徹底的に、人間の脳と感覚の関係を調べ尽くしたからこそ、これまで18件の特許を出願し、すでに基本特許を含む10件の特許も押さえてオンリーワンの技術を確立することができたのだ。

マウス型の3D Haptics Device 4D Space Navigator

マウス型の3D Haptics Device
4D Space Navigator

デバイスは日々改良され、現在のものは非常に軽く親指と人差指で簡単にもてる程度の大きさになっている。指先にとりつけ、無線通信できるバージョンも開発され、近々販売を開始する計画だ。

ゲームから医療までリアルな未来を

「最終的に目指すところは医療・介護分野です」と香田さんは断言する。手術支援ロボットのda Vinciのような遠隔操作技術が進んでいるが、切った感覚、骨があたっている感覚などはフィードバックできず、熟練した技をもった医師ではないと操作が難しい。そこに、ミライセンスの技術を導入することで、遠隔地においても、手術先でロボットが受けとる感覚を擬似的に感じながら手術を行えるため、ロボット医療のハードルが下がり、助けられる人も増える。しかしながら、当然医療分野での導入には時間も予算もかかる。だからこそ、最初の市場化はエンターテイメントのゲーム分野をターゲットとして設定している。「まずは、ゲーム分野で興味の持った方々に使っていただき技術を磨き、資金を集めます」。3Dプリンタを連動させれば、クレイモデルのデザインも触感を感じながら作ることができる。

「デジタルとリアルなインタラクションを実現し、未来の新しいライフスタイルを提供したい」。ほんの数年後には、触覚が無いバーチャルリアリティなんて信じられない!という時代が来ているに違いないだろう。

株式会社ミライセンス:http://www.miraisens.com