エイズを治す研究がしたい|清水 佐紀
カリフォルニア大学ロサンゼルス校 博士研究員
研究の世界へ憧れるきっかけとなったのが,大学2 年生のときに見た映画『アウトブレイク』だった。猛威(もうい)をふるう未知のウイルスとたたかう研究者が目から離れなかった。病気を治す研究をしてみたい!と生物研究の世界に飛び込んだ。
世界中で猛威をふるうエイズ(後天性免疫不全症候群)
世界で4000 万人近くが感染しているといわれ,今も感染者は増え続けている。そのエイズの原因となるのはHIV(ヒト免疫不全ウイルス)だ。HIV は,人の細胞に入りこみ,どんどんと増殖していく。感染して10 年ほど経つと,からだの免疫力が低下し,免疫不全症であるエイズを発症するのだ。エイズが初めて世界に報告されたのは1981年,まだエイズを完治させる治療法は見つかっていない。「この地球上からエイズをなくしたい」と,HIVの基礎研究を始めて間もなく,ある疑問を持った。HIV に感染しても,なぜかエイズを発症しない人もいる。なぜだろう,そう思って研究を続けていくうちにヒトのからだの中でつくられるタンパク質が,HIV の増殖を抑えている可能性を発見した。
「治療に応用できる研究をしたい」
そんな想いが強くなり,カリフォルニア大学ロサンゼルス校に渡った。現在は培養細胞を使い,HIV が細胞内に侵入する際の入口にしているタンパク質の働きを止める研究をしている。実際に医療に応用するには遠いが,少しずつ進んでいる実感がある。「世界に貢献できる研究,ということが自分にとって魅力的」と清水さんは語る。現在のエイズの治療法はウイルス自体に影響を与える薬を飲むこと。これにより増殖は抑えられるが,薬に耐えるウイルスが出てきてしまうと手立てができなくなる。ヒトのからだをHIV に感染しにくくできれば,新しい治療法ができるのではないか。新たな夢が膨らんだ。「研究が楽しい。だからこそ困難を乗り越えるパワーもついてくる」。研究が楽しいだけではない。仕事も趣味もしっかりやるのがアメリカ流だ。皆,趣味に打ち込み,そのつながりで人々の輪を広げていく。そんな中で,研究に,プライベートに,充実した生活を送っている。(文・田中瑠璃子)
清水 佐紀(しみず さき)プロフィール:
名古屋市立大学薬学部卒業後,東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科にて博士課程修了。その後,カリフォルニア大学ロサンゼルス校に赴任。