太陽が生まれたとき|藤井 紫麻見

太陽が生まれたとき|藤井 紫麻見

日本大学 理工学部 物理学科 教授

月は地球の周りを回り,そして地球をはじめとした太陽系の惑星は「太陽」というひとつの恒星の周りを回っています。では太陽は,いったいどのようにして生まれたのでしょう。

自らの重力でガスが集まる

太陽や地球が生まれる前のこと,宇宙空間には真っ暗な宇宙空間には「星間物質」と呼ばれるガスや細かいちりがたくさんが存在していました。これらを構成する水素(H)やヘリウム(He)は,自身が持つ熱のエネルギーによってふらふらと動き,互いに近づいたり離れたりしながら漂っています。ところがあるとき,事件が起こりました。ある1か所にたまたま密度高く集まったガスが,周囲より強い重力を持ち,さらに周りの星間物質を引き寄せ始めたのです。引き寄せられたガスの中心部は,どんどん密度が高まり,大きな重力を持つようになります。そうして広い範囲の物質を巻き込んで大きくなったかたまりは,中心部が周囲よりも高温,高圧になり,膨張しようとします。けれど,同時に自分自身の重力によって膨張する力は押さえ込まれ,2つの力がせめぎ合いながら,星間物質をさらに引き寄せていきました。そして十分に集まったとき,その内部温度は10~100万℃にもなり,ついに光を発します。

恒星の誕生

ガスが持つエネルギーが光として放出されることで,周辺部が冷えて,全体が収縮します。そうすることで,かたまりは「星」になるのです。このとき今の太陽の8%以下の質量しかないと,光の放出によって全体が冷えてしまい,褐色矮星と呼ばれる暗い星になります。しかし十分な質量があれば,収縮によって中心の温度はさらに上昇していきます。そして1000万℃に達したとき,星間物質を構成していた元素に大きな変化が起こります。密度が非常に高くなった中心部で,4つの水素(H)の原子核が融合し,ひとつのヘリウム(He)になるのです。この「核融合」反応は莫大なエネルギーを生み出し,強く光り輝く恒星となるのです。
こうして生まれた太陽の周りでは,さらにちりが集まってかたまりができ,それが絶えず衝突をくり返して,さらに大きなかたまりとなりました。8つの惑星を含む太陽系は,こうして誕生したのです。それを最後に肉眼で観測できたのは1987年のこと。2世紀に書かれた中国の歴史書『後漢書』にも記録されていますが,その間にある約1800年の歴史の中で,肉眼で見えたのは両手の指で数えられるほどしかありません。日本大学の藤井紫麻見さんは,その稀少な天文現象,超新星爆発を研究しています。

星の最期の大爆発

太陽のような恒星は,誕生から時間が経ち,核融合の燃料を使い尽くすと,重力によりどんどん収縮していきます。太陽程度の質量の星では収縮しきって暗い星,白色矮星となりますが,より重い星の場合,いずれ中心部の圧力が高まり,超新星爆発を起こします。その名前とは裏腹に,星の最期であるこの現象は,実は私たちとも大きく関わっているのです。腕時計やメガネに使われるTi(チタン),貴金属のAu(金)やAg(銀),Pt(プラチナ)。これらは,ほとんどが巨大な星の最期につくられた元素なのです。爆発の瞬間,中心部の超高密度な空間では陽子や中性子,電子の結合が起こり,Fe(鉄)より軽い元素から,重い元素が生成されていきます。それらはいずれ宇宙空間へと放出され,長い年月を経て今,私たちの手元に存在しているのです。

爆発のモデルをつくる

重い元素の多くは,非常に不安定な「放射性同位元素」というかたちでつくられます。それらは時間をかけて徐々に崩壊し,安定な元素へと変化していきます。これは放射性崩壊と呼ばれ,そのとき光として放出されるエネルギーが,超新星爆発の輝きを生んでいます。藤井さんは,爆発後の温度変化と,そこから生じる光の波長の変化を計算し,観測データと合わせて爆発のシミュレーションモデルをつくっています。そのモデルは,新たな超新星爆発が観測されたときに,もとの星の性質,生まれた元素の量や種類を知るための手がかりとなるのです。計算の結果,1987年の超新星爆発の際にはなんと地球質量の1万倍もの56Ni(ニッケル)が生まれていることがわかりました。

星の終わりが新たな星を生む

超新星爆発が生み出すのは,大量の元素だけではありません。その巨大なエネルギーは,周囲に存在するガスの分布に偏りを生みます。それがきっかけとなり,また新たな星が生まれていくのです。私たちの身の回りにあるものは,起源をたどってみれば,星々のかけらだったともいえます。星の最期が元素をつくり,新たな星を生んでいく。この地球も,その連鎖の中で生まれ てきたのです。(文・西山 哲史)

協力:藤井 紫麻見(ふじい しおみ) プロフィール:

日本大学 理工学部 物理学科 教授。1992年に東京大学理学部天文学科にて博士課程修了。博士(理学)。日本学術振興会特別研究員(PD),理化学研究所基礎科学特別研究員を経て,1995年日本大学に赴任。2007年より現職。

http://www.phys.cst.nihon-u.ac.jp/labo/staff/fujii.html