5秒チャージの携帯電話 〜ひとつの電池が変える未来のくらし〜

5秒チャージの携帯電話 〜ひとつの電池が変える未来のくらし〜

自分の気になる学部を見つけよう 〜大学の最先端の科学・技術紹介します〜

第1回 未来をつくる、工学部  協力:東京理科大学

協力:谷内 利明さん 東京理科大学 工学部

「あの人がテレビに出ているよ!」「ホント?すぐ見てみる!」といって取り出すのは携帯電話。インターネット,カメラ,ミュージックプレーヤー,お財布…そして今やテレビにもなる携帯電話は,ただ電話をするために使われていた頃とは大きく変化してきています。そして今,電話の進化によって,中にある電池も変化を遂げつつあるのです。

リチウム電池では,足りない!

これまでは通話に数十分という単位で使用するだけだった携帯電話も,テレビとなると数時間の単位で使うようになります。現在携帯電話に使われているのは「リチウム電池」。負極にあるリチウムから電子が放出され,電流を生み出すしくみです。電池がなくなれば,充電が必要です。しかし,今後テレビをはじめ携帯電話にさまざまな機能が搭載され,膨大なデータを何時間もやり取りするようになれば,数時間に1回充電が必要になってしまうかもしれません。これではとても「携帯」できません。

溜めるのではなく,「発電する」

今,携帯電話の新たな電力源として注目されているのは,燃料電池です。名前こそ「電池」ですが,燃料を補給すれば半永久的に電気をつくり出せるため,火力発電などと同じ「発電する装置」という方が正しいでしょう。燃料電池は白金粒子などの触媒をカーボン粒子に混ぜて電極にし,負極に水素,正極に空気中から酸素を供給します。すると水素が負極で水素イオンと電子に分離し,水素イオンが電解質膜中を,電子が電線をそれぞれ移動して正極で酸素と反応することで電気が流れるという原理です。発生する廃棄物は水だけ。板状の燃料電池を,何層にも重ねてつなぐことで大きな電力を生み出しています(50枚で1kWほどの電力)。これを携帯電話に積み,電力を「発電」して持ち歩こうというのです。

燃料電池

小型燃料電池の開発

現在,大学の工学部や企業で,携帯電話やパソコンなどに搭載するような小型の燃料電池の研究開発が進んでいます。従来はメタノールから水素を発生させて水素を供給していましたが,最新の技術では直接メタノールと空気中の酸素をそれぞれ負極,正極に供給して電気をつくれるようになっています。液体は気体よりも単位体積当たりのエネルギー量が大きく,少量でも十分な電力を得ることができるため,小型で高効率の燃料電池開発が可能です。東京理科大学工学部第二部教授の谷内利明さんは,電解質膜を紙のように薄い電極ではさんだシートをつくり,ジグザグに折りたたむことでセルを何層にも重ねあわせるという方法を開発しました。携帯電話にも搭載可能な小型化に成功したのです。さらに,谷内さんが現在開発しているのは,より自在なかたちに折りたたみ,変形しても発電できる燃料電池。これが実現すれば,機械にできたどんなかたちの隙間にも電池を設置することが可能になります。

コンビニで,5秒チャージ

携帯電話用の燃料電池が実用化されれば,電池がなくなったら近くのコンビニへ飛び込み,100円ライターのような感覚で燃料(メタノール)を購入して補給できるようになるかもしれません。ほんの数秒で電話が使えるようになるのです。現在は,7ccのメタノールで7時間ほど携帯電話で通話できるようになったという報告がされています。実用化までに必要なのは,まずより効率のよい燃料電池の開発,という技術的な面。さらに,メタノールを入れるカートリッジの規格化や空のカートリッジの回収方法などの整備も必要ですが,「2年以内には実用化されるかが決まる」と谷内さんは語ります。

未来を「つくる」技術

新しい技術により,私たちの生活だけでなく,マナーや法律も変化します。今のように携帯電話がなかった時代は,待ちあわせはしっかりと時間と場所を決め,見たいテレビがあれば走って家まで帰ることが普通でした。「優先席の近くでは電源を切りましょう」というマナーも新たに生まれたものです。電池がひとつ変わる,それだけでまたひとつ新たな「未来の生活」ができる。そう考えると,普段何気なく使っていた携帯電話の中の「技術」に興味がわいてきます。
ところで,燃料電池でできる水はどうするのでしょう。水蒸気にして背面から排出する方法がそのひとつ。お肌に優しい加湿器付き?携帯電話を持ち歩く日はもうすぐそこ。1〜2年後にはあなたの手元にあるかもしれません。(文・楠晴奈)

工学ってなぁに?

工学部ってなぁに?最終的には「人の役に立つものを世の中に提供する」ということを大なり小なり持っている学問だと思います。10年後,20年後の世の中で使われるものを想像しながら研究を進め,実際に社会に反映していく。そこが工学の魅力です。

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