家が医療のパートナー「共生ロボットハウス」

寺田 信幸

東洋大学 理工学部 機能ロボティクス学科 教授

大学のキャンパスの一角にある,新築の家。足を踏み入れると,木のいい匂いがする。一見普通の家だが,実はいたるところに検査機器がかくされており,住んでいる人の健康状態をさりげなくチェックしてくれる。医学と工学という2つの視点を持った寺田さんが,この「共生ロボットハウス」の開発を行っている。

緊張すると,上がる血圧

からだの健康状態をみる指標のひとつである,血圧。血液の流れによって血管の内側にかかる圧力のことで,心臓から送り出される血液の量と,血管のかたさや太さによって決まり,血圧が低い方が心臓病などのリスクも低いと考えられている。年に一度の健康診断でも必ずといっていいほど測るが,それは果たして,普段の血圧なのだろうか。血圧だけでなく,健康状態を測る前には誰しもが「これから測る」ことを意識する。こう意識したこと自体が,測定結果に影響してしまう可能性があるのだ。

本当の健康状態をみる

「血圧に限らず本当の健康状態をみるためには,自然な状態で測る必要がある」。大学で生物を学んだ後に,臨床検査技師の資格を取り,医療の現場で活動してきた寺田さんはこう考えている。普段の生活をしながら,いつのまにか健康診断が終わっている。これを実現するために考え出されたのが,「共生ロボットハウス」だ。壁や天井にセンサーが設置されていたり,ベッドやテーブルそのものが検査機器になっていたりして,常に住人の心拍,呼吸,体温,体重,そして表情を診てくれている。住居自体が検査ロボットになっており,ひとり暮らしのお年寄りでも安心して住める。

医学と工学の手をつなぐ

医療現場の一線を離れた後は,医学の研究をしながら,検査機器どうし,病院間をネットワークでつないで情報を共有するシステムをつくる中で,工学の視点を養ってきた。「医学部と工学部では考え方が異なるため,連携していくのは難しい」。医学部は診断や治療という結果を中心に求め,工学部はプロセスを重視する。その2つの価値観の間にある溝を埋め,使う人にとって最適なものを生み出すために協力体制をつくっていくのが寺田さんの仕事だ。再来年には,共生ロボットハウスの一般公開が始まる。医学と工学が結びついた成果を見られるのはもうすぐだ。(文・磯貝里子)

寺田 信幸(てらだ のぶゆき)プロフィール:

1976年に東邦大学理学部卒業後,1992年に山梨医科大学で医学博士取得,助教授に就任。2002年より山梨大学総合分析実験センター助教授。2005年より現職。2009年4月より理工学部生体医工学科就任予定。

http://ris.toyo.ac.jp/details/index.php?user_id=1105