アホウドリ 〜誰も見たことがない鳥〜|長谷川 博

東邦大学 理学部 生物学科 教授

頭に山やまぶき吹色をあしらい,くちばしは青みがかったピンク色の大きな白い鳥,「アホウドリ」。先端に黒い模様が入った翼を広げると2m。大きな羽をいっぱいに広げてグライダーのように空を飛ぶ姿はとても優雅です。日本の無人島で繁殖する彼らは,一時たった50 羽にまで減ってしまった絶滅危惧種なのです。

無人島だけで会える鳥

大型海鳥の彼らは,夏の間食べ物を求めてベーリング海やアラスカ湾,北アメリカ西海岸の沖を飛び回り,一部はメキシコ沖にまで南下します。10 月になると,東京の約600 km 南, 伊豆諸島最南部にある無人島の鳥島に集まり, そこで4 か月間離れていたアホウドリのつがい(夫婦)は再会し,たったひとつの卵を産みます。鳥島は風が強く,木がほとんど生えない火山島。周囲が険しい崖となっているこの島には,鳥以外の動物はほとんどいません。彼らは誰にも邪魔されることなく子育てを行うのです。

アホウドリが消えた日

1887年,おびただしい数のアホウドリが繁殖していた鳥島に12 名の日本人が上陸し,島の開拓を始めました。羽毛を採るために,毎年十数万羽を捕獲し,それから約半世紀の間にわずか50 羽にまで減らしてしまったのです。東邦大学の長谷川博さんがアホウドリのことを知ったのは小学生の頃。1976 年,28 歳になったときに「日本人が絶滅の危機に追いやったアホウドリを救おう」と,ひとりで島へ渡ったのです。

いつかアホウドリを見よう

大型のアホウドリは陸上では素早く動けず,飛び立つときには斜面を助走します。長谷川さんが最初に島に渡った当時,彼らは地面がむき出しになった斜面で細々と子育てをしていました。まず,そこに草を植えて地面を安定させ,卵の転落事故死を減らしました。次に考えたのは安全な場所への誘導計画。集団で繁殖する習性をうまく利用してたくさんの模型を並べ,録音した音声を再生し,若い鳥をなだらかな斜面へと呼び寄せたのです。12年かけ,新しい集団をつくることに成功しました。最初に上陸した年,ひなの数はたったの15羽。それが32年後には270羽にまで増え,総個体数は約200羽弱から2,100羽あまりになりました。2008 年には,火山のない小笠原諸島の聟むこじま島列島に,ひなを移住させて新しい集団をつくる大計画が始まりました。アホウドリはようやく,絶滅の危機から再生の道へと進み始めたのです。

長谷川博 プロフィール:

東邦大学 理学部 生物学科 教授。1976年京都大学理学研究科博士課程修了。1977年より東邦大学理学部所属,2004年より現職。1976年からアホウドリの保護研究を開始し,2008年11月には鳥島で100回目の調査を行った。

アホウドリ復活への軌跡 http://www.mnc.toho-u.ac.jp/v-lab/ahoudori/