みんなでつくる「勝手ケータイ」|田胡 和哉

東京工科大学 コンピュータサイエンス学部 教授

その携帯電話を手に持つと,ずっしりとした重みがあった。外見は数年前のものだが,中のソフトは自由にプログラミングができるという最新ケータイだ。この開発者である田胡さんは,「研究者の独りよがりにならない,社会に受け入れられるものをつくりたい」と話す。

IT大変革のとき

この数年,携帯電話の性能は大きく進歩してきた。カメラは高画質になり,インターネットにつないで動画を見ることもできる。性能だけを見れば,数年前のパソコンを超えているものもあるだろう。それとともに,情報技術はより多くの,身近な場所で活用され始めている。田胡さんは「何十年に一度の大変革のときを迎えています。ぜひ,この波に乗りたいと思いました」と話す。そして生み出したのが「工科大ケータイ」だ。

自分好みのケータイをつくる

これまでの携帯電話とパソコンとは,使う側がどれだけ自由にプログラムを入れ替えられるかが大きく違った。WindowsやMac OSのような,プログラムを動かす基盤となるOS(オペレーティングシステム)の種類が,プログラム入れ替えの自由度を大きく左右する。携帯電話のOSでは,このような変更を厳しく制限してきた。一方,工科大ケータイはOSとしてLinuxを搭載している点に特徴がある。Linuxは開発に関する情報がすべて公開されており,1991年に生まれて以来,世界中のプログラマーが改良を重ねてきた。それを携帯電話に入れることで,いらない機能を消したり,新しいプログラムを加えたり,さまざまな改造ができるのだ。インターネットにつないで世界の誰かがつくったプログラムを入れることもできるし,自分がつくったものを世界中の人に配ることもできる。「誰もが自分好みの“勝手ケータイ”をつくれるようにしてみたいのです」。

世の中の一歩先を行く

5年前から始めた研究。実は2年前,Googleが似た発想の携帯電話用OS「Android」を発表した。市販のものではまだ1機種しか対応していないが,田胡さんは早速それを工科大ケータイにも導入し,動作することを確かめている。学生時代,研究で成果を上げて賞をもらったこともあったが,一方で「情報処理の技術を研究する」ということの意味がよくわからずにいた。しかし日本IBMに入ってから,それを理解することになる。社会から求められているものを提供していかなければ企業としての活動は続かない。「特に情報という分野は世の中に受け入れられないとダメなんです。だから,商品として売れるものをつくっていきたい」。近い将来,さらなるIT変革が訪れたときも,田胡さんはきっとその一端を担っているだろう。(文・磯貝 里子)

田胡 和哉(たご かずや)プロフィール

筑波大学大学院工学研究科博士課程修了,工学博士。筑波大学電子情報工学系助手,東京大学工学部助手,日本IBM東京基礎研究所を経て,2002年より東京工科大学。