レスキューロボット、出動!|羽多野 正俊

日本大学 理工学部 専任講師

20XX年,日本列島を巨大地震が襲った。揺れが収まった後に残ったのは,がれきの山と化した街並み。そのとき,生き残った人々の居場所を探し出し,がれきをどかして救出するのに,ロボットが活躍しているかもしれない。

困ったときに飛んでくる……はず

学生の頃に研究していたのは,工場の生産現場で働くロボットだった。移動しながら必要な部品を取り,車などを組み立てていく。そのとき,どんなかたち,重さの部品を持つかや,地面にあるわずかな凹凸によってロボットの姿勢が変わり,目的を果たすために必要な動きも変わる。羽多野さんは,その動きをシミュレーションし,正確に制御するためのシステムをつくっていた。そして修士課程が終わろうとしていた1995年1月17日,今の研究の道へ進む大きなきっかけが生まれた。阪神・淡路大震災だ。マグニチュード7.3,都市の直下で起きた地震はビルを倒壊させ,高速道路をなぎ倒し,大きな被害をもたらした。「マンガの世界なら,こんなときにロボットが飛んできて助けてくれる。でも現実には出てこないのは,なぜだろう」。そう思い,博士号取得後に富山大学に勤め始めたのと同時に,自らレスキューロボットの研究に乗り出した。

ものをつかむのも一苦労

ロボット開発には大きく2つの方向性がある。ひとつは,人が操縦するもの。もうひとつは,自ら状況を判断して動くものだ。羽多野さんが研究を始めたのは,後者の方。だが,ハードルは高かった。たとえば私たちは,本などを持ち上げるとき,どこをつかめば持ちやすいかをすぐに判断できる。かたちを見れば,大体の重心位置がわかるからだ。しかしロボットにはその判断ができない。そのため,羽多野さんはロボットアームの指先に力センサーをつけて解決しようとしている。重心の位置をつかむことができれば,重さはほとんど下側の指にかかる。重心から離れた場所をつかむと,下側の指を支点として,てこの原理で上側の指にも重さが伝わる。手探りをしながらがれきの重心を探り,持ち上げるというわけだ。

目指せ,ひとり立ち!

他にも,がれきが複数積み重なっているときに,ひとつひとつのかたちをどうやって認識するか,凹凸のある地面の上でどう活動するか,レスキューロボットの実現までには課題が山積みだ。2m以上のからだと強力なアームをもっていながら,まだまだ自分ひとりでは動けない赤ん坊のようなロボ。いつか困った人を助けられるよう,羽多野さんは研究を続けている。(文・西山 哲史)

羽多野 正俊(はたの まさとし)プロフィール

1998年福井大学大学院工学研究科修了。博士(工学)。富山大学助教を経て,2006年より現職。