からだのしくみを追究する ~もうひとつの「薬学部」~
北里大学薬学部 今井 浩孝 衛生化学教室 × 松尾 由理 薬理学教室
みなさんは,「薬学部」にどんなイメージを持っているでしょうか。医療の現場で薬の知識を活かし,さまざまな症状の患者さんと向き合う薬剤師の姿。その一方で,薬に関わる「研究」ができるということ,知っていましたか?
——薬に関わる研究はいろいろあると思いますが,具体的にはどのようなものがあるのでしょうか。
(今井) 大きく4つくらいに分けられると思います。まず,薬を合成する化学系,僕たちがやっているような,細胞の機能から薬のもとになるようなものを探す生化学系,コンピュータを使って薬の働きをシミュレーションする物理化学系,それから松尾さんがやっている,動物を使って薬の効き目を調べる薬理や,実際にヒトに応用してみる臨床ですね。とても幅広いです。
(松尾) 薬学部は,もともと生物系と有機合成系の研究室が中心だったと思います。でも,最近は今井さんが挙げたいろいろな分野が集まって学部が構成されていますよね。そういう異分野が一緒になって薬というものをつくろうとする,それが薬学部の特徴だと思います。
——「薬学部で研究する」ことの魅力って何でしょうか。
(今井) 「薬学」っていうと,すぐ頭に浮かんでくるのは「薬剤師」じゃないでしょうか。でも,それは薬学部の一部でしかないんですね。薬を「扱う」のが薬剤師であって,実は,薬を「つくる」のも薬学部のひとつであると思うんです。今の社会の流れでは,どちらかというと薬剤師の方がすごく脚光を浴びていますが,本当は薬を「扱う」と「つくる」の両輪があって初めて薬学部の使命をなすんじゃないかな,と思っています。
(松尾) たとえばお医者さんが治療できる人数って限られていると思いますが,研究して有効な薬がひとつできれば,大勢の人を助けることができますよね。自分が行っているような基礎の研究が,将来的にすばらしい治療薬に結びつくかもしれない。私にとって,そういう薬をつくる過程に携わっているということは,とても大きな喜びなんです。
——世界の研究を見たときに,今の日本の薬学研究のレベルはどうでしょうか。
(今井) 薬学に限らず,日本の研究のレベルはかなり高いと思います。特に進んでいるアメリカと並んでいるといっても過言ではないし,技術的にもかなりユニークな研究をしている人もいますよね。日本発の技術でも,発表したとたんに世界が戦いを挑んでくるわけですから,そういった意味でも遜色はないんじゃないかと思います。
(松尾) 設備とか,技術,知識においても,日本はトップクラスにあります。ですから,今の時代「研究するなら海外に」ということもないのではないでしょうか。ただ,国際的な視野をつけるっていうのはすごく大事だと思いますね。研究はなかなかうまくいかないことばっかりで,苦しいことも多いんです。けれども,その中で発見したときの喜び,それは何にも代えられないものだと思うので,ぜひ味わってほしいですね。
(今井) 僕たちはその研究のおもしろさに取りつかれてしまったんです。研究で生き物を扱っていると,まだまだわからないことがいっぱい隠されていると感じます。そういうものをひとつでも発見できたときの「やった!」という喜び。それが忘れられないんですね,きっと。(対話構成・磯貝里子)
今井 浩孝(いまい ひろたか)プロフィール:
1988年東京大学薬学部卒業。1993年同大学院薬学系研究科博士後期課程修了,薬学博士。1993年北里大学薬学部に助手として赴任,講師を経て,2004年より准教授。また,2006年よりJSTさきがけ「代謝と機能制御」研究員兼任。
松尾 由理(まつお ゆり)プロフィール:
1994年東京大学薬学部卒業。同大学院薬学系研究科修了後,1998年より北里大学にて助手を務める。助教を経て,2006年より講師。薬学博士。