コスメに秘められた光の物語|山田 純 

コスメに秘められた光の物語|山田 純 

芝浦工業大学 工学部 機械工学科 教授

「内側から輝く肌へ」。ファンデーションのCMでよく見かけるキャッチコピーですが,これはたとえ話ではありません。ファンデーションを塗ることによって光を味方につけた私たちの肌は,本当に内側から輝くことができるのです。

お肌が内側から輝く秘密

これまで,ファンデーションを塗ると肌が美しく見えるのは,肌表面で光を反射させているためであると考えられていました。しかし,肌に当たった光のうち,表面で反射される光はたったの5%程度。実に95%もの光が,肌の中まで入り込んでしまうのです。肌の中に入ってきた光のうち,たとえば赤い色の光では,約40%は肌の中で吸収されて熱になります。残りの約55%は,肌の細胞,その中の核や細胞質に当たることによって散乱し,再び肌の外へ飛び出していきます。芝浦工業大学の山田純さんは,肌のキメの細かさや透明感といった「視感」を生んでいるのは,肌表面で反射するわずかな光ではなく,肌の中を散乱して出てくる光なのではないか,と考えました。そして,肌の中の光を効率よく外に散乱させる小さな酸化チタン/酸化鉄の粒を開発。その粒を含むファンデーションを塗ることによって,肌に吸収されるはずだった光をうまく肌の中から外側に散乱させ,肌に柔らかく自然な明るさを生み出そうとしたのです。そうして,後に大ヒット商品となった資生堂「マキアージュ」のファンデーションが誕生しました。

工学研究者はクリエイター

こうした山田さんの研究によって,マキアージュのファンデーションには,「肌を内側から輝かせることができる」という,科学に裏付けられた,世の中をあっと言わせるようなストーリーが追加されました。「私は何もないところからストーリーを考え出すクリエイターでありたい」。技術は,社会のトレンドと結びついて初めて意義のあるものになります。人が集まる場所やイベントに足を運んでトレンドを追い,常に新しい組み合わせを考え続ける。これがクリエイティブでいられる秘訣なのだそう。山田さんはこれからも,光を使って社会をあっと言わせる美しいストーリーをつむぎ続けていきます。(文・立花智子)

山田 純(やまだ じゅん)プロフィール:

芝浦工業大学工学部機械工学科教授。1986年東京工業大学大学院にて修士課程修了。ヤマハ発動機株式会社,東京工業大学,山梨大学を経て,2005年より現職。博士(工学)。