コムギの改良は、いばらの道
カリカリに焼いたトーストやチーズがたっぷりかかったパスタなど、その原料であるコムギは私たちの生活にはかかせない存在です。
しかし、2050年には今の約2倍の食糧が必要になり、これ以上農地を増やすことは困難。
そこに一筋の光を照らす技術のひとつが、植物に新しい性質を与える遺伝子組換えです。
ステージ1:カルスから植物体へ
遺伝子組換えで使う、どんな組織にも分化できる「カルス」と呼ばれる未分化な植物細胞の塊。
ここに遺伝子を組み込むと、カルスから分化・増殖する細胞すべてにその遺伝子が入るようになります。
しかし、遺伝子を組み込むことができても、カルスから植物体に成長しないこともあります。
コムギはそんな作物のひとつ。
1000個のカルスからきちんと育つのは、なんとたったの3個程度です。
「光、温度や寒天培地の成分など、考えられる原因はたくさんあります。まだ職人芸の領域ですが、いつかこの組換えの方法論を確立したいですね」と、横浜市立大学の一色正之さんは目標を語ります。
ステージ2:遺伝子組換えの影響
実は、植物体に成長したとしても、まだまだ道のりは遠いのです。
一色さんが扱うのは、通常のコムギより20%多く種子がつく遺伝子や塩分が多い土地でも育つ遺伝子など。
この中には「転写因子」と呼ばれ、いくつかの遺伝子の発現を複雑に調整する遺伝子が含まれています。
実際に、この転写因子を組み込むと、自分がほしい機能だけでなく、他の機能にもなんらかの変化が生じる可能性が出てきます。
植物がきちんとその機能を保持し続けることができるのか、この後何世代にも渡って観察していく必要があるでしょう。
ステージクリアで、緑の革命
1960年代に起きたといわれる、穀物の大増産「緑の革命」。
一色さんの夢は、この研究によって ヘクタール(10、000m2)当たりの収穫量が2、3倍に増え、砂漠や塩害のある地域でも育つなどの性質を持つコムギをつくり、第二の緑の革命を起こすこと。
「高校生のみんなが大学生になり、研究の道に進もうかなと考え始める頃には、コムギの遺伝子組換え技術も確立し、この分野の研究が飛躍的に進み始めるかもしれませんね」。