魚道のユニバーサルデザイン 安田 陽一
夏、キャンプや合宿で山奥の川に遊びにいくと、澄んだ川底に魚の群れを見つけることができる。
川の流れに逆らうように泳ぐ彼ら。エサを求め卵を産み、生きる場所を開拓するために彼らはのぼる。
いったい、どのように目的地までたどりつくのだろうか。
水の流れを知る
たとえば、水の流れの中に青いインクを垂らす。
すると、渦や波をつくりながら青色は広がっていく。
水の流れにはいろいろな性格がある、そう話す安田さんは、川の流れを研究し、魚が自然にのぼっていけるような魚道をつくっている。
日本の河川は勾配が急で、季節が豊かなため洪水も起こりやすい。
その治水のために建設したダムにより下流の川の性質が変わってしまい、魚がのぼれなくなるという現状がある。
安田さんは、大きな落差のある川にプール式台形断面の魚道を置くことを考えついた。
横からみると台形型のプールが階段状に並び、正面をみると斜面が1対1の台形になったものだ。
すると、通路の両側の流れが緩やかになり、いろいろな生き物が休憩しながら川をのぼって行けるようになる。
一見単純な解決策のようだが、水の流れを長年研究していたからこそ解決できた問題なのだ。
物理学と生物学の出会い
もともと物理学で高速流の研究をしていた安田さんだが、あるとき、高速流によって生態系が崩れそうなことを知る。
長崎県東シナ海側の川まで出かけたところ、エビが川をのぼれずお互い食べ合ってしまうという現実を目の当たりにした。
きちんとのぼることができれば、生存場所が広くなり逃げ道も増える。
そこで、安田さんはさっそく研究室で魚道の模型をつくって何度も検証。
エビの水面ぎりぎりの壁を這はう性質に注目して、川の両壁に角度をつけ台形に。
流域が広くなれば水の流れも緩くなり、移動しやすいだろう。
実際に設置してみると、夜、暗闇の奥から大量の銀色の点々が浮かび上がってきた。
ついにエビの大移動が始まったのだ。まさに2つの学問が融合した瞬間である。
魚もエビもウナギも 現在、全国約60か所に提案しているという魚道。
北海道の知床では23年ぶりにカラフトマスが産卵するために川に戻ってきたという。
「環境や生き物を大切にしようと考えたとき、物理学などの基礎的な研究が具体的な解決策を提示してくれるんです」。
縦横の台形型プールを使えば、いろいろな生き物が利用できるようになる。魚道のユニバーサルデザインを目指して、安田さんは今日も好奇心の川をのぼる。(文・孟芊芊)