総合研究大学院大学 学融合を産み出す総研大学生セミナー

総合研究大学院大学 全学事業推進室室長 岩瀬 峰代 さん

総合研究大学院大学 素粒子原子核専攻 5年一貫制博士課程1年 菊田 遥平 さん

青山学院大学ヒューマン・イノベーション研究センター客員研究員 七田 麻美子 さん

総合研究大学院大学生命体科学専攻に入学。修了後、全学事業推進室の立ち上げとともに室長に就任。

総合研究大学院大学素粒子原子核専攻に入学。現在実行委員として次年度のセミナーの企画運営に携わっている。

総合研究大学院大学日本文学研究専攻に入学。学生セミナーの過渡期を経験した。修了後、現職。

総合研究大学院大学(以下、総研大)は、昨年、創立20周年を迎えた。総研大学生セミナーは1990年からスタートした。毎年、入学式の直後2日間を使って3つのセクションからなるセミナーが実施されている。そこには、高エネルギー加速器研究機構、国立遺伝学研究所などに所属する理系学生だけではなく、国文学研究資料館や国立歴史民俗博物館などに所属する文系学生まで、幅広いバックグラウンドを持つ学生が参加し、議論を行う。学際的な研究を生み出す1つのかたちだ。

進化を続ける学生セミナー

スタート以来、各専攻から選ばれた実行委員(教員と学生1名ずつ)で運営されてきた学生セミナー。自身も新入生として学生セミナーに参加し、翌年には実行委員として運営にも携わった経験を持つ岩瀬さんは、全学事業推進室の室長として運営サポートに加わる中で、毎年変化しているのを実感している。

岩瀬:「学生セミナーは、横のネットワークを作ることが1つの目的です。各研究機関がトップレベルであるからこそ、その中だけで完結することができてしまう。でも、学生セミナーを行うことで、それぞれの研究機関を『総研大』というもう1つ大きな枠で捉えることができるようになるのです。最近では学生の自由な発想が運営に反映されるようになり、私自身も感じたプログラムの魅力が最大限に引き出されてきたように思います」。

七田:「私が実行委員だった時期が、岩瀬さんが推進室に来たころで、学生セミナー変革の過渡期だったんですね。それでも、まだ周囲には実行委員に対する反対意見も多かった。ある意味で研究に支障をきたしますからね。リーダーをやろうものなら、『3年で卒業する気はないのね』なんて思われていたと思います。でも、実際には違うんですよ。1年目は、研究室に慣れたり基礎的な勉強をしたりするのに精一杯で、本格的な研究まではできないのが普通です。だったら、その時期に実行委員をやることで多くのメンバーと交流し、視野を広げる方がいいこともあります。実際、時間的にはハンディを負っているはずの実行委員を務めたメンバーは、その分充実した研究生活を送って、相当な成果を出していたんじゃないでしょうか」。

岩瀬:「そういった魅力が伝わってきたのか、最近ではいい意味で変化が現われてきました。本来、実行委員会は22名(各専攻から1名ずつ)で構成されます。ところが、誘い合ってセミナー委員になったり、1名に絞りきれず専攻の新入生全員がセミナー委員になったりすることも増えてきた。5年一貫博士課程の導入により実行委員の構成に変化が表れ、運営も事実上学生のみに任されるようになってきました」。

菊田:「新入生は、セミナーに参加することで単位がもらえるんです。その内容を何もない状態から僕たち上級生が作るんです。自由にやらせてもらって、本当にびっくりしています。よくよく考えてみると、すごい責任を感じますね。実際には、参加してみてものすごく楽しかったので、自分も実行委員になろうと思ったわけです。年に数回行われるミーティングは、交通費や宿泊費が支給される出張扱いとなるなど総研大からのバックアップ体制も十分です。最近では打合せ場所として、様々な研究機関を利用することで研究所見学もかねるのが楽しみの1つです」。

岩瀬:「毎年実行委員のコーディネート能力や、セッションの内容が年々レベルアップしていのを感じます。毎回先輩の企画を体験してから実行委員に立候補するので、きっと『あの企画には負けたくない!』っていう競争心が生まれているんでしょう。学生セミナーを通して経験したことを活かして、研究面でも、よりパワーアップしてほしいですね」。

広がる可能性 〜総研大ワークショップ〜

可能性を示す一例が、実行委員の有志が立ち上げた『総研大ワークショップ』だ。3回目となる今回は、「共同研究をしてみよう」というテーマの下、ワークショップや企画を通してお互いの研究を理解する取り組みがなされた。

菊田:「博士前期課程の学生がメインの参加者なので、研究もまだ発展途上。本格的な共同研究までたどり着くことは難しいですが、お互いの発表を聞いて、フリータイムやお昼の時間を利用して目当ての人とディスカッションを繰り返し、共同研究のシミュレーションを行いました。最後に5〜6分のプレゼンを行い、コンペティションをすることで優勝を決めたんです」。

七田:「多様なバックグラウンドを持つ学生が、自ら共同研究を意識して何かをする機会は珍しい。いつか研究者として再会したときに、もし共同研究が生まれたとしたら、きっかけは学生セミナーや総研大ワークショップといえるんじゃないかな」。

菊田:「僕は元々、高エネ研で研究したいと思っていたので、総研大の存在を知らなかったんです。入学直後に学生セミナーを体験することで、その全貌を知ることができました。すごいラッキーだったと思ってます。何と言っても他分野の研究の話を聞けるのが、すごく楽しい。入学式の後に参加したセミナーでも、今実行委員をやっている間も、もちろん総研大ワークショップも、共同研究を意識しながら様々な研究を知ることができました」。

七田:「普通なら、専門性が高まるほど自分の範囲を区切ってしまいがちになる。例えば『法律の分野は、私の研究には関係ないからいいや…』と思ってしまう。でも、総研大という枠組の中で学生セミナーを経験し、様々な人と交流することで、分野を区切らない自分ができてくるのを感じます。たとえば、文系の場合は何年もかかって博士号を取得するのは当たり前。その中で、私は5年で取得することになりました。これは、理系の人が3年で修了したり、どこかでポストを見つけたりするのを見送った経験が影響しています。全く知らない人ではなく、友人でありライバルであるからこそ刺激になるんです。そんな視点や経験も、ここでしか味わえないんじゃないかな」。

研究に役立つだけが全てではない。様々な考え方、専門性を持つ人が集まることで、研究者として、いや人間として大きく成長できるのが総研大学生セミナーではないだろうか。