沖縄の校庭に緑のじゅうたんを広めたい|赤嶺 光
琉球大学 農学部 准教授
沖縄といえば,青い海と白い砂浜。その美しい海岸に,芝がじゅうたんのように広がっていることを知っているだろうか。沖縄の人「うちなんちゅ」にとっては見慣れた景色だ。赤嶺光さんが研究対象に選んだのは,生まれ故郷で何気なく見逃していた植物だった。
近くにあった芝との再会
沖縄県を含む南西諸島には,日本原産のすべての種類の芝が自生している。今から18年前,琉球大学にて植物の研究を始めた頃,海岸を歩いていて,ふと芝が目に留まった。他の研究者と話すうちに,これまであまり気にしたことがなかった芝について,解明されていない点が多いことに気づいた。赤嶺さんは,身近にある植物の実態がほとんど知られていないことにおどろき,その特徴を調べて沖縄県独自の緑化方法に活用していきたいと研究を始めた。
沖縄の芝を調べる
芝の育成・管理方法についてはさかんに研究が行われているが,赤嶺さんは,手つかずであった沖縄県の野生の芝について調査研究を行うことにした。海岸に行けば,野生のサンプルを簡単に得ることができる。沖縄県各地の芝地を調査した結果,特定の場所にだけ奇形が見られること,幼葉の構造の違いによって,大きく2種類に分類できること,新種のダニが寄生していることなどを発見した。このように,研究の範囲は,芝そのものから,関係する生物へと徐々に広がってきている。現在は,芝の根に共生し菌根という特殊な組織をつくる菌根菌に注目し,その共生関係を解明することを目的として研究に取り組んでいる。将来は,芝の品種と菌種の適合性を利用して,芝生の管理方法への応用に役立てたいと考えている。
校庭を緑に
「管理されていない芝はただの雑草ですが,人が管理し,それを楽しむことで,“芝生”として利用することができます。それは人々の気持ちを開放し,広々とした明るい環境をつくる。ぜひ沖縄の校庭に芝生を入れていきたいですね」と赤嶺さんは話す。今年,赤嶺さんは宇宙に芝の種を打ち上げ,帰還後に小中高校で栽培するプロジェクトを行う。「地味な存在であった芝を宇宙へ行かせてやりたかった」という赤嶺さんの言葉には,芝に対する親心が感じられる。増殖が簡単であるという芝の特徴を活かして目指すのは,「宇宙芝」で覆われた運動場だ。(文・福田裕士)
赤嶺 光(あかみね ひかる)プロフィール:
1988年琉球大学大学院農学研究科修士課程修了。(財)進化生物学研究所,名護自然動植物公園を経て,1992年琉球大学農学部助手となる。2005年より現職。博士(農学)。