宇宙からの襲来!見えない敵から生活を守る|高橋 芳浩

宇宙からの襲来!見えない敵から生活を守る|高橋 芳浩

日本大学 理工学部 准教授

テレビのお天気おねえさんの声で今日の空模様を知る,いつもの朝。その予測の元となる雲の分布や高さ,風の状況は,地球の周りを飛ぶ人工衛星に搭載されたコンピュータによって計算・予測されている。常に稼働しているこれらの精密機器だが,同時に宇宙空間を飛びまわる放射線にさらされているのだ。

宇宙にしかない「誤作動」

宇宙では,地球の約1000倍もの放射線が,コンピュータのメモリなどに使われている半導体に衝突する。すると,プラスとマイナスの電荷が発生し,それがスイッチとなり電流が流れることで情報が変わってしまい,コンピュータの誤作動を引き起こすことが多い。現在では,半導体素子であるシリコンの中に,電気を通さない絶縁膜をサンドイッチ状に挟むことで,放射線による影響を抑えている。しかし,それでも微量の電流移動が観測されてしまう。高橋芳浩さんは,このメカニズムを解明し,デバイス構造を最適化することにより,更に放射線耐性をあげることに成功した。

地球上でも無視できない問題

20年前,1KBだったメモリは,今その10⁶ 倍もの容量を持つ。内部に収納されている半導体の大きさもかなり小さくなったことになる。「同じ大きさの石でも,プールよりバケツに投げ込んだほうが影響は大きいですよね。同じように,これまで無視できた放射線の影響が,少しずつ地球上でも目立つようになってきたのです」。たとえば,パソコンが意味もなくフリーズしたりする現象。100回に1回はそのせいだといわれている。すぐに部品の交換ができないため誤作動を最小限にしなければいけない宇宙と違って,地球上では誤作動をいち早く検知することが求められる。「これからは,宇宙とは異なるアプローチ方法で,研究していかなければいけませんね!」と,高橋さんは好奇心に満ちた表情をする。

目に見えないからこそおもしろい

プラスやマイナスの電荷を実際に見たことがある人はいない。「電気という分野は,見えないからこそイメージがわくのです。設計していた回路がうまく動作しなかったとき,あそこで電荷がこう動くから……などと想像するのがおもしろいんですよ」。そして仮説を立て,それを検証する実験を行い,結果を見ながらまた頭を悩ませる。この思考と実践のくり返しが,「見える」技術をつくり出していくのだ。(文・柴藤亮介)

高橋 芳浩(たかはし よしひろ)プロフィール:

1988年日本大学大学院理工学研究科電子工学専攻修了。日本大学理工学部助手,専任講師を経て,2007年より現職。材料・デバイス分野において,半導体に対する放射線照射効果などを研究している。