謎めく闇に一筋の光を与える深海案内人|猿渡 敏郎
チョウチンアンコウの繁殖生態は極めてめずらしく,メスの体表にオスが寄生します。
寄生したオスはメスから栄養分をもらいながら生きながらえ,ひたすら産卵の瞬間を待ちます。「チョウチンアンコウについて調べてみたいと思わない海洋生物学者はいない」と話す猿渡敏郎さんは,そのふしぎに魅了された研究者のひとりです。しかし,研究したくても研究できないのがチョウチンアンコウ。実際に生きた状態のまま深海から捕獲することは非常に困難で,当然飼育法も確立されていません。彼らが生息しているのは水深1000mよりも深いところです。産卵の際は水深数100mまで上がってくるものの,光が届かない場所での魚の捕獲は技術的に難しく,めったに網にはかからないのです。そんな中,猿渡さんが幸運にも入手できたミツクリエナガチョウチンアンコウには,8匹ものオスが寄生していました。このサンプルを使って,チョウチンアンコウのメスとオスがどのようにして拒絶反応を起こさずに栄養分のやり取りを行うのかということについて調べていく予定です。寄生のメカニズムが解明されれば,人間の臓器移植などへの応用も期待できるのです。猿渡さんの夢は「チョウチンアンコウの繁殖を水族館で見ること」。彼らの未知なる魅力をたくさんの人に知ってほしいと願っています。(文・田島和歌子)