身近な気体を利用してプラスチック製品が復活!?|柳原 尚久

身近な気体を利用してプラスチック製品が復活!?|柳原 尚久

帝京大学 理工学部 バイオサイエンス学科 教授

物質には,固体,液体,気体の「三態」があることは教科書でもおなじみ。でも実は,これ以外に別の状態が存在します。これらのどれでもない「超臨界状態」になった二酸化炭素(CO₂)が,なんとプラスチックのリサイクルに一役買うというのです。

固体,液体,気体ともうひとつの状態

密閉した容器の中に液体を入れて温度を上げると液体は気体になります。また,容器に気体を入れて圧力をかけると,気体は液体になります。一方,温度と圧力の両方を同時に上げると,「超臨界状態」という液体と気体の区別がつかない状態になり,この状態にある物質を「超臨界流体」と呼びます。超臨界流体は,気体のようにどんな小さなすき間にも入り込み,同時に液体のようにものを溶かす,特殊な性質をもっています。CO₂の場合,31.1℃,73.8 気圧を越えると超臨界CO₂になり,身近な物質の中では,最も穏やかな条件で超臨界状態に到達します。帝京大学の柳原尚久さんは,これを溶媒に利用して二酸化窒素(NO₂)でプラスチックを分解する研究を始めました。

分子に還るプラスチック

ペットボトルの材料であるポリエチレンテレフタレートに代表されるポリエステルや,ナイロンに代表されるポリアミドといったプラスチックは,自然にはなかなか分解されないのが問題です。しかしこれらは,超臨界状態のCO₂中で,NO₂によって分解されやすいこと,さらにその分解物にはプラスチック製品の原料になるジカルボン酸という化合物が多く含まれていることがわかったのです。これをケミカルリサイクルといいます。「生分解性プラスチックは製品自体が土に還ってしまいますが,ケミカルリサイクルの場合はもう一度原料にすることができる。これが,同じプラスチック製品を対象にした技術でも大きく異なる点です」と柳原さんは話します。

超臨界二酸化炭素でリサイクルに挑む

加工した材料を分子レベルまで分解するだけでなく分解物を再利用できるこの方法なら,あふれているプラスチックゴミをもう一度使えるようにすることができます。この技術をさらに磨き上げることが,地球環境に優しい化学反応の開発と応用を可能にするのです。化学の力で循環型社会が現実になる,そんな未来を柳原さんは目指しています。

柳原 尚久(やなぎはら なおひさ)プロフィール:

帝京大学理工学部バイオサイエンス学科教授。1985年,Univ. Autonoma de Guadalajara 大学院にて博士課程修了。同大学化学科助教授,Univ. of Arizona 博士研究員を経て,1990 年に帝京大学理工学部に赴任。2008 年より現職。