あれもこれも、好きなことに打ち込みたい|朝比奈 雅志
帝京大学 理工学部 バイオサイエンス学科 助教
子どもの頃から,将来は学校の先生か研究者になろうと考えていた。「でも,その頃は研究者って雲の上の存在で,どういうものなのか具体的なイメージはありませんでした」。そんな朝比奈雅志さんが研究の道に進むきっかけになったのは,1枚の生き物の写真だった。
やるのなら,目に見える研究を
大学のパンフレットで見つけたその生き物は,「プランクトン」。なんとも表現しがたい,ふしぎなかたちに心惹かれた。生物を扱う研究なら目に見えるものをと思い,プランクトンの構造についての研究を開始。そのうち,自分で手を動かすことで何かわかるということに喜びを感じるようになり,研究を続けていくことを決心した。
ヒミツは接ぎ木にあり
「植物の茎に傷をつけたら,その後細胞組織はどう変化していくのか」。これが,研究室に入った朝比奈さんの最初の研究テーマだった。農業などで用いられている「接ぎ木」は,植物の茎に傷をつけて別の茎をくっつける方法。カボチャとキュウリの接ぎ木を行う際,古くからの手法として「台木のカボチャの子葉を切断せずに残す」ことが伝えられてきた。子葉の有無によって傷をつけた後の変化に違いがあるのか調べたところ,子葉を切断した茎は傷の断面の組織が治癒しなかった。そして,植物ホルモンの一種であるジベレリンを添加すると傷口が回復することがわかったのだ。「目に見えないものが変化すると,傷口が回復したり組織のかたちが変わったりと目に見える変化として結果が出る。そうやって,遺伝子や,遺伝情報をもとにつくられる化合物,組織,個体……とつなげていきたい」と朝比奈さんは言う。
実験も勉強も楽しい!
2009年からは大学教員という顔も持つようになり,子どもの頃から目指していた2つの職業を両方手に入れた。自分の専門から外れた分野の講義も担当するため,勉強が欠かせない。じつは,勉強していると,実験のアイデアがひらめく。そして,実験をしていると疑問が浮かんできて,また勉強したくなるというくり返しだ。「今,勉強がすごく楽しいんです。研究に使える時間はその分減ってしまうんですが,相乗効果で勉強も研究も進みます」。好きなもののためなら打ち込める。「教えている学生たちも,だんだん実験が楽しいと言うようになってきた」と顔をほころばせる朝比奈さんの,楽しい勉強と実験の時間はまだまだ続く。
朝比奈 雅志(あさひな まさし)プロフィール:
2004年,筑波大学大学院生命環境科学研究科修了。博士(理学)。筑波大学・日本学術振興会特別研究員(理化学研究所・植物科学研究センター客員研究員併任),オレゴン州立大学,筑波大学遺伝子実験センター研究員を経て,2009年より現職。
http://www.e-campus.gr.jp/staffinfo/public/staff/detail/1494