変幻自在のカタログで、イメージはお手のもの|長田 典子

変幻自在のカタログで、イメージはお手のもの|長田 典子

関西学院大学 理工学部人間システム工学科 教授

布っぽい,金属っぽい。やわらかそう,固そう……。私たちは,実際にものに触れることなく,見ただけでそう感じることができます。そんな,人の感性を定量化して三次元CGに応用すれば,よりリアルな映像をつくることができるようになります。

明暗が,石とゼリーを分ける

たとえば,デジタルカメラで写真を撮ったとき,デジカメは表面の凹凸によってできる明暗の度合いやその分布といった情報を数値化して記録しています。画像にするときは,その数値をもとに,対象物の色や光沢,透明感を再現しているのです。では,その数値を変えたらどうなるでしょうか。もともと石のように見えていた画像が,ゼリーや金属のように,まるで材質が変わったように見えてしまうのです。このように,ものの質感に関する情報は,数値化して単純に抽出,操作できる一方で,それをCGで再現しようとすると計算に何時間もかかるような繊細な面も併せ持っています。関西学院大学の長田典子さんは,人が感じる質感を定量化する「感性情報学」を駆使して,カーテンの質感をCGで再現しようとしています。

布らしさのもとは,散乱する光

布特有のやわらかな色合いは,織り方による光の透過性だけでなく,透過した光が散乱反射することに由来します。そのため,見る方向によって見え方が違うのです。そこで長田さんは,カメラを用い,1920個の観測点で布から反射する透過散乱光の分布を計測し,シミュレーションモデルをつくり上げました。これにより,リアルなカーテンの質感を再現できるようになったのです。

 

布らしさのもとは,散乱する光

布らしさのもとは,散乱する光

未来のアニメーションカタログ

さらに,布の素材や織り方,色や柄などを考慮してモデル化を進めることで,CGを使ったカーテンカタログをつくりたいと長田さんは話します。展示会ともなると,使うカタログの量はトラック3台分。それが,たった1台のパソコンですむようになるのです。自分の部屋の写真と合わせたシミュレーションが可能になるだけでなく,洋服のカタログに利用できれば,ファッションチェックも気軽にできる日が来るかもしれません。「この研究が進めば,私たちの生活は大きく変わっていくでしょう。映像をつくることがゴールではない,人の幸せこそがゴールなんです」。(文・瀬野亜希)

長田 典子(ながた のりこ)プロフィール:

関西学院大学理工学部人間システム工学科 教授。1983年,京都大学理学部数学系卒。博士(工学)。2007年より現職。感性情報学,共感覚の脳内メカニズムを研究している。

http://ist.ksc.kwansei.ac.jp/~nagata/