自動車は、まだまだ進化する|堀内 伸一郎
日本大学 理工学部 機械工学科 教授
小さな頃から飛行機の模型が大好きで,高校生のときはラジコン飛行機を飛ばしていた。大学では人力飛行機をつくりたい!そう考えていた堀内さんの道は,大学入学直後に少し方向転換をした。目が向いたのは,「動きをいかに制御するか」ということだった。
乗り物好きが,研究者になった
飛行機好きの少年が動きの制御に興味を持ったのは,格納庫で実際に飛行機づくりをする現場を目にしたときだった。「手を動かして飛行機をつくるより,その動きを解析したいと感じたんです」。そう話す堀内さんは,大学院で飛行機が出す騒音を減らす飛び方について研究を行い,卒業後に自動車の動きの制御を専門とする研究室に移った。「飛行機も自動車も,運動を方程式で表して,制御法を考えるという点は共通なんです。今は最適な走り方ができるよう,運転者に合わせてサポートをする方法を研究しています」。研究の目標は,アクセルやブレーキの踏み方など人ごとに異なる癖も認識したうえで,姿勢を崩さないように自動的に動きを制御する車だ。
運動を計算し,制御を変える
理想的な制御を行うためには,まずどんなときに車は姿勢を崩すのかを調べることが重要だ。そのために,タイヤの向き,回転数,ブレーキのききの強さ,車体の重さや重心の高さなどさまざまな要素を使い,車の動きを予測する方程式を立てた。そしてアクセルやブレーキ,ハンドルをどのように操作したら最も不安定になるかを計算し,それを防ぐように機械がアシストする方法を考えるのだ。そうしてつくり上げた制御法の効果を,シミュレーターで調べる。それだけでなく,タイヤの向きやブレーキのきき具合をコンピュータで制御できる実験用の車を使った実験もしている。学生が実際に運転して,車が思い通りに動くかどうかを確かめるのだ。
未来の車を想像しよう
研究が進んだその先では,どんな車が生まれるだろう。今は車を買い換えるごとに,運転者が操縦性の違いに慣れる必要がある。それを「運転者の癖をメモリーカードに記録して,車を買い換えてもカードを差し込むだけでドライバーの特性に合った最適な制御ができるようにしたいですね」と話す堀内さん。車の動きと運転者の感覚を解析し尽くした末に生まれる未来の自動車は,きっと誰にとっても運転しやすいものになるはずだ。(文・西山哲史)
堀内 伸一郎(ほりうち しんいちろう)プロフィール:
1984年,日本大学大学院理工学研究科航空宇宙工学専攻修了。工学博士。同大学助手,ミシガン大学交通研究所客員研究員などを経て,2001年から現職。