ミクロな機械「タンパク質」でつくる社会|金谷 茂則

ミクロな機械「タンパク質」でつくる社会|金谷 茂則

大阪大学大学院 工学研究科 教授

タンパク質のサイズは,およそ10nm。目で見ることも触れることもできないけれど,アミノ酸が無駄なく配置され,じつに規則正しく,そして効率よく働いている。解析が進み,明らかにされていくタンパク質の姿を,金谷茂則さんは「分子機械」と表現する。

微生物がもつ酵素のちから

金谷さんが現在注目しているのは,万博会場で剪定された枝葉を処理するために,窒素源として尿素を加え,微生物が持つ酵素によって発酵させた「コンポスト(堆肥)」だ。酵素とは,生体内の化学反応を触媒するタンパク質のこと。コンポストの中の温度は,はじめは50℃だったものが時期によって70~80℃に上がったり,40℃に下がったりと変化する。それぞれの温度の堆肥から微生物をサンプリングすることで,特徴のある酵素を見つけることができるのではないかと考えたのだ。実際に金谷さんたちのグループが見つけた最も特徴的な酵素は,ポリエチレンテレフタレート(PET)を,1週間でもとの半分の重量にまで分解することができる「エステラーゼ」だった。

明らかになる「分子機械」の姿

「生体内の化学反応を担うタンパク質の働く様子や構造など,分子や原子の世界を見てみたい」。それが金谷さんの研究を推し進めるモチベーションだ。さらに,特徴的な酵素を探し出して構造を調べ,社会に役立てていきたいと考えている。今は,X線構造解析や核磁気共鳴(NMR),電子顕微鏡など,目には見えない酵素の姿を観察する技術が発達し,さらには,遺伝子組換えによって目的のアミノ酸を置き換えることで,働きを調べる方法も確立されている。「目覚しいサイエンスの発展とともに,構造解析で得られる新たな情報が増えてきました」とこの数十年間をふり返る。

タンパク質を自由にデザインする

これまでは不可能だと考えられてきた,「反応性が高くて安定性も高い」という,いいとこ取りのタンパク質を人工的に合成することができるようになってきた。金谷さんの目標は,目的に応じて新しい機能を持ったタンパク質をつくり出すこと。今は,コンポストから発見した酵素の構造やPETの分解過程を明らかにし,一晩で1本のペットボトルを分解できてしまうくらいまで活性を向上させることを目指している。ミクロな「分子機械」の研究が,環境に負荷のかからないような社会の実現につながっている。

金谷 茂則(かなや しげのり)プロフィール:

1979年,東北大学大学院理学研究科化学第二専攻修了。理学博士。米国立衛生研究所(NIH),三菱化成株式会社,株式会社蛋白工学研究所を経て,1995年より現職。

取材協力:大阪大学大学院グローバルCOEプログラム生命環境化学グローバル教育研究拠点