地球温暖化問題の解決される未来へ|山中 康裕

地球温暖化問題の解決される未来へ|山中 康裕

北海道大学   大学院地球環境科学研究院  教授

「地球温暖化問題は,なんとかなる」。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告書に貢献している「海洋生態系シミュレーションモデル」の研究を行う山中康裕さんは,そう口にした。世界の気候は今後、どうなっていくのだろうか。

海の表層にいる小さな生き物

私たち人類が排出する二酸化炭素の量は,炭素で換算して1990年代,1年間で80億トン。このうち,海が吸収する量は約22億トンだといわれている。「プランクトンは,光合成によって二酸化炭素を有機物に変えています。しかし,気候が変わると海水の循環が変わる。栄養塩を豊富に含む深層水が海洋表層に届かなくなり,プランクトンの成長が悪くなるといわれているのです」。プランクトンの動きを把握できれば,温暖化と水産資源の関係性も明らかになる。山中さんが最近開発した新しいモデル「COCO-NEMURO」は,北太平洋における栄養塩やプランクトンの主要な種類などの物質循環や生態系を追うことができる優れもの。これにより,温暖化によって,春先の植物プランクトンの大増殖が10~20日程度早まることがわかってきたのだ。

「こだわらない」という姿勢

子どもの頃から地球に興味があって,図鑑をぼろぼろになるまでくり返し読んだ。高校生のときの夢は,環境問題の最前線に立つか地球科学の研究者になること。その一方で,パソコン少年でもあった山中さんは,このふたつの興味を活かして,自分にしかできないことをやろうと決めた。そして20年前,雲の動きや海流など物理的な要因のみで構成されていた気候モデルに,「植物プランクトン」の炭素循環を取り入れることを思いついた。シミュレーションしてみたところ,これまで観測でいわれていた予想と大きく異なっていたのだ。それは当時あまり注目されていなかっただけに,この研究成果のインパクトは大きいものとなった。

最後の秘策は,人づくり

そんな山中さんが行き着いた地球温暖化の防止策は,「人」だった。「地球温暖化は,対策ではなく,予防が大事なんですよ。これからは,世の中の人たちの温暖化に対する意識を変えられるような人を育てていきたいですね」と語る山中さんは,現在,北海道大学での人材育成に力を入れている。20年前,インターネットがこれほど普及するとは考えられなかったように,数十年後,地球温暖化の心配が消える世界になるかもしれない。なんとかなる,なんとかする。山中さんはその決意をもってこれからも突き進む。

山中 康裕(やまなか やすひろ)プロフィール:

1991年,東京大学大学院理学系研究科にて修士課程終了後,東京大学気候システム研究センター助手。1995年,東京大学にて理学博士号取得,1997年からプリンストン大学客員研究員。1998年より北海道大学大学院地球環境科学研究科助教授を経て,2010年より現職。

http://wwwoa.ees.hokudai.ac.jp/~galapen/