千差万別、変幻自在の巨大ポリマー|石曽根 隆 

千差万別、変幻自在の巨大ポリマー|石曽根 隆 

東京工業大学大学院 理工学研究科 有機・高分子物質専攻 准教授

われわれは包囲されている

ペットボトルの材料であるポリエチレンテレフタレート(PET)は,単量体(モノマー)であるエチレングリコールとテレフタル酸が,交互に数千・数万個つながった直線状の重合体(ポリマー)である。このように,1万以上の分子量を持つ巨大分子は,高分子と呼ばれる。PETの特徴のひとつは,熱可塑性。常温では,分子どうしが絡まったかたい状態であるが,熱を加えると,ほどけて水あめのようにやわらかくなる。加工が自由自在なので,ペットボトルを集めて高温でどろどろにし,細い穴を通して押し出せば,穴の太さが直径の繊維ができ上がる。編み込めば,いま話題のリサイクル繊維を使ったエコな洋服になるのだ。ポリマーはペットボトルだけじゃない。レジ袋はポリエチレン(PE),食品用ラップフィルムはPEもしくはポリ塩化ビニリデン(PVDC),フライパン表面はこびりつきを防ぐポリテトラフルオロエチレン(PTFE)からつくられている。キッチンだけではない。カーペットの繊維,消しゴムや接着剤など・・・私たちは日々,たくさんのポリマーと接しているのだ。

ポリマーと一緒に歩む歴史

東京工業大学の石曽根隆さんは,これまでに使われることのなかった素材から新しいポリマーを開発している。最近注目しているのは,ダイヤモンドの結晶と同じ骨格を持つ10個の炭素からなるアダマンタン。「炭素が持つ本来の角度(109.5°)がそのまま保たれているから,ひずみがなく極めて安定しています。対称性と剛直さを持ち,いろいろな可能性を秘めている物質なのです」と,微笑む。これからも世界では,新しい素材が続々登場するだろう。その中には,石曽根さんがつくり出したポリマーもあるかもしれない。「巨大お化け」と私たちの歴史は,これからも続いていく。(文・林慧太)

石曽根 隆 プロフィール:

東京工業大学大学院 理工学研究科 有機・高分子物質専攻 准教授。1986年,東京工業大学工学部高分子工学科卒業。工学博士。1999年から現職。重合反応,高分子の反応の研究をしている。

http://www.op.titech.ac.jp/polymer/lab/ishizone/top.html