海中の体操選手「クラゲ」の泳ぎの謎にせまる|望月 修
東洋大学 理工学部 生体医工学科 教授
半透明の傘を広げては収縮させ,海の中を優雅に浮遊するクラゲたち。水族館やお盆が過ぎた頃の海で,見かけることも多いでしょう。彼らの動きを流体力学の視点から見たとき,その泳ぎ方にはこれまでの常識をくつがえす「技」がありました。
水の渦は,つり輪の輪っか
最近まで,生物学者たちの間では,クラゲは傘の中に水を含ませた後に,それをジェット噴射することで進むと考えられていました。しかし,東洋大学の望月修さんは,この定説に疑問を感じていました。そこで,ある条件で光る微粒子を含むエサを海水に混ぜ,クラゲの周りの水流を調べたところ,ジェット噴射は観察されませんでした。代わりに,傘をきゅっと閉じるときに,傘の縁の部分に小さな水の渦をいくつかつくっていることがわかったのです。「クラゲは,この渦を押して,からだを上に持ち上げていることがわかったんだ。まるで,体操競技のつり輪をするみたいにね」。つり輪理論と名づけられたこのクラゲの動きは,定説をくつがえす新発見となりました。
きっかけは血液の流れ
生き物に興味を持ったのは,体調を崩して入院したときに,超音波を使って血液の流れを見たのがきっかけだといいます。当時,飛行機の翼の上で起こる空気の渦「乱流」のメカニズムを研究していた望月さんは,さらに細い血液の流れを見てみたいと研究を始めました。その頃,ちょうど東洋大学で生物系の流体力学の研究に関する募集があり,すぐに応募。今はクラゲだけでなく,蚊やペンギンにまでその研究対象は広がっています。「僕がやっていた飛行機の研究では,どうやって渦を抑制するかを考えてきたが,同じ渦でも,生き物はそれを利用して生きていることがわかった。それがおもしろい」と,うれしそうに話します。
なぜ?から始まる新発見
生命体が水という流体をどう使っているのか知りたいという想いで,研究を進めてきた望月さん。分野にとらわれる必要はなく,どんなことにも「本当?」と疑問を持てと言います。これからも,水中の世界からたくさんの発見がなされるでしょう。(文・木村聡)
望月 修(もちづき おさむ)プロフィール:
東洋大学 理工学部 生体医工学科 教授。1982年北海道大学大学院工学研究科機械工学第二専攻博士後期課程修了。博士(工学)。名古屋工業大学,北海道大学での勤務を経て,2002年より現職。