情報技術がつくる、新しい縁結びの方法|高田 秀志
立命館大学 情報理工学部 教授
ノートパソコン,携帯電話,ゲーム機・・・自分専用の情報端末を持っているのが当たり前の現在。電車に乗ると,メールの確認やゲームをするため,手元の画面に集中してしまいがちだ。情報技術を使いながら,もっと「人と人」のつながりを深められないか。そう考えて,高田秀志さんは研究を進めている。
子どもの行動を変えるソフトをつくろう
2003年,京都市で新しい教育をつくる「ALAN−Kプロジェクト」が立ち上がった。このプロジェクトの目的は,コンピュータを使いこなし創造的な活動ができる子どもを育てること。そのために,画面上に絵を描き,思い通りに動かすプログラムを簡単につくれるソフトウェアを使い,学習カリキュラムをつくっていた。そこに研究員として参加していた高田さんは,ワークショップを実施するなかで,あることに気づく。「みんな目の前の画面だけに集中してしまうんです。他者とコミュニケーションを取り,協力して何かをつくり上げることを,コンピュータを使って実現できないかと考えるようになりました」。それがきっかけとなり,共同作業を促進するようにソフトウェアをつくり替え,子どもの行動がどう変化するかを見るという研究が始まった。
ひとりではできないから協力が始まる
コミュニケーションを増やすため,高田さんが注目したのが「自由と制約」だ。子どもは球や直方体などの3Dモデルを組み合わせてキャラクターをつくり,動きをプログラムする。最初の設定では,さまざまな方向から眺めて好きなように部品を配置したり,高速で動かしたりと,自由に制作できた。すると,変なかたちをつくったり,めちゃくちゃな動きをさせたりすること自体が楽しくなり,自分の画面にのめり込んでしまうのだ。そこで使える部品数を制限し,視野を狭く限定し,さらに画面内に重力が働くように設定をつくり替えた。文化祭の準備などで大きなものをつくるとき,誰かに持ち上げてもらって下側をのぞいたりした経験はないだろうか。同様にひとりひとりのコンピュータ画面から見えるものの視野を変え,隣に座る人に教えてもらわないとわからない情報をつくるのだ。また,重力という概念を加えることで,マウスを使って物体を持ち上げる必要を生ませる。すると,「裏側はどうなってる?」「これ支えておいてよ」というように自然と相談が始まり,協力してひとつのものをつくり始めた。「情報技術の研究としては,ひとりがつくったものが他の参加者にも瞬時に共有されるしくみをつくることがテーマになります」。誰かが同じ対象に別々の操作をしたときにどう処理をするか,またコンピュータ間でどのようにデータの受け渡しをするか,ということを理論立て,プログラミングを行っている。
縁を生む,ケータイ同士のすれ違い
もうひとつ,人と人をつなぐために高田さんがつくっているものがある。「街角メモリ」というAndroidアプリだ。「最近はみんな携帯電話とかパソコンとかを持って情報を検索していますし,広告なんかも使用者の好みや考えに合わせたものが表示されるようになっています。情報を偶然手に入れるということが少なくなっている気がするんです」。街角メモリは,近くにいる人が発信する情報を受け取ることができる。近所でやっているイベントのことなど,近くの人が持つ情報は,自分にも役に立つ可能性がある。それをアプリで集めることで,おもしろい情報との予期せぬ出会いを増やせるのではないかと考えたのだ。このシステム,今はすれ違った瞬間に,その人のTwitterでのつぶやきを拾い上げるしくみになっている。「まだ使っている人は少ないんですけど」と少し苦笑いして話す高田さんは,いずれこれを独自のシステムを使い端末同士が直接データのやりとりをするように進化させていきたいという。
画面の中で交わされる,操作や会話の数々。その向こうには必ず,人がいる。携帯やパソコンをツールとして,身近な人どうしのコミュニケーションを増やしていきたい——10年後に学校で行われる情報の授業は,今とはまったく違うものになっているかもしれない。(文・西山哲史)
高田 秀志(たかだ ひでゆき)プロフィール:
1993年,京都大学大学院工学研究科博士課程前期課程を修了。その後,三菱電機株式会社でプラント制御システムのソフトウェアづくりに携わりながら博士号を取得。2004年に京都大学へ研究員として戻り,2006年から現職。