浮き輪のかたちをした実力派|高橋 圭子
東京工芸大学 工学部 生命環境化学科 高橋 圭子教授
糖の輪っかでできています
この香りを閉じ込めるのが,ブドウ糖が6~8個連なって輪のかたちをした化合物「シクロデキストリン」。内側の空洞の大きさによって,さまざまな分子を取り込むことができる。輪の外側は水になじみやすい「親水性」,内側は逆に水になじみにくい「疎水性」という性質を持つ。そのため,水に溶かしたシクロデキストリンの中に,油になじむ成分を入れると,その化合物は周りの水を避けるように輪の中に入っていき,単独では水に溶けにくい成分でも水に溶けるようになる。揮発しやすい香り成分も,シクロデキストリンの中に取り込めば安定化するので,香りを長く持続させることができるのだ。逆に不快なにおいを閉じ込めることもできる。これらのしくみを利用して,ペットボトル入り緑茶やチューブ入り調味料などにも使われている。
じわじわと,人気者の頂点へ
東京工芸大学の高橋圭子さんは,2010年に企業と共同で新しい美肌ジェルを開発した。シクロデキストリンを使ってしわやしみに効く成分を安定化し,「少しずつ」放出するため,副作用がほとんどないのだ。美容外科で有用な治療法として使われている。シクロデキストリンと輪の中の化合物は,常にくっついたり離れたりをくり返すが,輪の中にある分子と外にある分子の割合は一定である。「このバランスが,効果を持続させるのにちょうどいいのです」と,高橋さんは言う。化粧品だけでなく,医薬品の分野でも活躍できる。糖が鎖のように連なっただけという,単純な構造を持つシクロデキストリン。今,そのユニークな性質と機能がさらなる注目を集めている。(文・磯貝里子)
高橋 圭子さん プロフィール:
東京工芸大学 工学部 生命環境化学科 教授。1981年に東北大学大学院薬学研究科博士課程前期課程修了。東京工芸大学工学部に赴任。助手,講師,助教授を経て,2003年より現職。薬学博士。薬剤師の資格も持つ。