まだどこにもない海の地図をつくれ|鳥海 重喜
中央大学 理工学部 情報工学科 助教
水平線上を静かに走る大型コンテナ船や荒波に乗るマグロ漁船。障害物がない海の上では,船が自由自在に行き来しているように見えます。しかし,そこには決められた「海の道路」が存在するのです。
水面下のコスト戦争
鉄道の路線図を眺めていると「ついニヤニヤしちゃう」くらい,地図が好きだという中央大学の鳥海重喜さんは,数年前から海の航路を研究しています。じつは,世界中の航路を網羅する地図はありません。「まずは,世界中の船の動きを見てみたい」。そこから,鳥海さんの研究はスタートしました。船が進む航路の決定には,運送コストが大きく影響し,少量の燃料で済む最短距離をとることが求められるのです。これに,偏西風などの気候や,座礁しやすい浅瀬などの地形も考慮されます。鳥海さんは,分析結果を視覚化して意思決定のサポートをする情報工学の手法「オペレーションリサーチ」を取り入れました。2007年における船の出着港場所を線でつなぎ,発着日時や船のスピード,最短距離ルートなどの条件を加えることで,海の航路をシミュレーションすることに成功したのです。
海賊もたじたじの研究成果
パソコン画面に映る立体的な地球儀の上では,色分けされた船の種類や通行量が一目でわかります。すると,これまで見えなかった問題点が見えてきました。ヨーロッパとアジアを結ぶスエズ運河付近のルートは多くの船が利用しており,それをねらった海賊の船が出没しているのです。2010年のIMB年次報告書によると,海賊発生件数は445件と増加傾向にあります。海賊を避けるために遠回りすれば距離が伸び,危険を承知で渡れば海上保険料がかかる……データの分析を長期的に行い海賊の出現パターンや頻度を把握することで,海上輸送のリスク管理につながるでしょう。
鉄道マニアから研究者へ
乗り物や地図への興味が,情報工学というツールを通して研究に変わったという鳥海さん。「自分の興味あることを極めていってほしい」。将来に悩んだときこそ,原点に立ち戻ってみるのはどうでしょうか。
鳥海 重喜(とりうみ しげき)プロフィール:
中央大学 理工学部 情報工学科 助教。2007年,中央大学大学院理工学研究科修了。博士(工学)。キヤノン株式会社,(独)海上技術安全研究所を経て,2008年より現職。