「みんなのために」、建築について話し合おう|八藤後 猛
日本大学 理工学部 建築学科 准教授
たとえば,普段なにげなく踏むちょっとした階段。私たちにとってはただの段差だが,車いすを使う人にとっては大きな「障害」となる。バリアフリー建築に関する研究を行ってきた八藤後猛さんは約10年前,少子高齢化が社会問題になるのをきっかけに,子どもを取りまく環境に注目した。
子どもの安全を守るために
「よく,危険物は子どもの手の届かない場所に置こうというが,何cmの高さなら安全なのだろうか。いざ研究しようとすると,子どものからだの寸法に関するデータってほとんどないんですね」。スタートは,そこからだった。八藤後さんは1歳から6歳までの子どもを対象に,手が届かない高さを知るために背や腕の長さを測定した。また,指の厚さなどの統計をとり,手が挟まらないような手すりと壁の距離を導き出した。データを元に,模型を用いた検証実験やアンケート調査も行った。その結果,危険物は 80cm以上の高さに置く必要があり,穴やすき間の直径は2.5mm以下あるいは15mm以上であることが望ましいことがわかったのだ。建築物や周りの環境を整えることで,子どもの安全はつくり出せる。
社会と密接に関わる
「建築は芸術と違って,人が生活する空間なので,必ずそこには社会的な視点が入ってきます」。そんな八藤後さんの研究テーマは多岐にわたる。研究室のゼミでは,学生と一緒に新聞記事を読み,時事的な話題について「これって本当なのかな」などと,感想から議論にまで発展させる。ここで,仮説の立て方,ものの考え方,調査・実験方法の組み立て方を学んでもらうのだそうだ。アンケート調査では,学校や公共機関の協力を得るために,まずは自分の研究の意義を伝え,理解してもらうところから一歩ずつ始まる。八藤後さんの研究室には,モノづくりだけでなく,建築を通して人間を知りたいという学生が集まる。今日も,彼らは「みんなのために」議論を交わす。(文・安冨真央)
八藤後 猛(やとうご たけし)プロフィール:
日本大学 理工学部 建築学科 准教授。1981年,日本大学大学院理工学研究科修了。国立職業リハビリテーションセンター,障害者職業総合センター適応環境研究部に勤務。1996年より助手,専任講師を経て現職。博士(工学)。