【ミニ特集】新薬メーカーの 生き残り戦略

2011年は、日本の創薬研究が大きく変わる節目になるかもしれない。アステラス製薬、第一三共という日本製薬業界のトップ3に入る企業が、こぞって研究の公募活動を開始したからだ。研究開発を全て社内で囲い込む、という従来のイメージを払拭するこれら国内大手企業の動きは、これからの創薬研究にどういう影響を与えるのであろうか。

手の内を明かすことで得られる未来

アステラス製薬は、2011年5月にa3(エーキューブ)を開設した。「国内の大学・研究機関、企業の研究者の方々とのよりいっそう強いパートナーシップを構築し、革新的で有用な新薬を創出するための創薬共同研究機会を提供する公募サイト」という位置付けで、同社の解決したい技術的課題やターゲットとする研究領域などがテーマとして公開されている。研究開発が生命線となる製薬企業において、このような情報はトップシークレットともいえる内容だ。従来であればウェブページ上で入手できるような情報ではなかったが、オープンイノベーションを推進するためにむしろ詳細に公開し、外部としても手を上げやすいかたちを採用している。その他、第一三共も同様のコンセプトで公募を開始している。製薬企業のオープンイノベーションを推進するための公募活動を表1に示す。

日本型か、外国型か

共同研究や寄付講座の開設など、日本において製薬企業と外部研究機関との研究交流は以前より密に行われて来た。そもそも製薬企業が外部の研究を支援することは新規性があることではない。2010年の国内製薬企業ランキングTop20社を見ても、そのうち16社は財団法人を構え、大学等研究機関の研究を支援して来た実績がある(表1)。しかし、支援する主体を製薬会社本体とし、広くアイデアを募るかたちにしたことで、得られた成果を事業につなげやすくなったに違いない。なお、外資メガファーマでは研究開発部門の急激な縮小と研究開発型ベンチャーのM&Aが依然活発に行われている。社外のリソースを活かすオープンイノベーションという意味で国内の動きと方向性は一緒だが、研究開発機能を社外にほとんど依存するという外資の手法とは一線を画す。「日本的」な公募が功を奏するのか、今後に期待が集まる。

【表1】製薬企業の研究助成活動

【表1】製薬企業の研究助成活動
製薬企業が持つ財団とそれぞれの財団から支給された助成金の規模をまとめた。助成年度の欄に記載した年度における採択テーマ数と助成総額を記した。

【オープンイノベーションとは?】

「オープンイノベーション」は、カリフォルニア大学バークレー校のHenry Chesbrough教授によって提唱された新たなコンセプトである。同教授の「Open Innovation」(2003)では次のように定義されている。

Open Innovation is a paradigm that assumes that firms can and should use external ideas as well as internal ideas, and internal and external paths to market, as the firms look to advance their technology.

(オープンイノベーションとは企業が保有技術を活用するため、社内外のアイデアや販路を区別なく利用することが可能であり、用いるべきであるという、概念的枠組である。)

「オープンイノベーション」は、社内のアイデアに頼るだけでなく、社外のアイデアをも上手く使い、企業の境界線を越えて、研究開発や事業化を進めることで、新たなマーケットを創出するということである。