製薬企業の現場から

製薬企業の現場から

製薬企業が推進するオープンイノベーションについて企業担当者はどのように捉えているのか、現場の声を紹介する。

大日本住友製薬株式会社
オープンイノベーション開発室長
西中重行

ビジネス化まで共に挑戦する研究者を求める

 大日本住友製薬株式会社は2015年7月、公募型オープンイノベーションプログラム「PRISM」を発表した。その背景には「会社の期待通りに自社開発品を生み出せていないという反省がある」と同社オープンイノベーション開発室長の西中氏は話す。もともと先行品が存在する疾患市場において改良品を生み出していくことが多く、自社開発、共同研究いずれのプロジェクトでも、画期的新薬を生み出せていなかったという。そこで西中氏は、PRISMを「自社の研究員とアカデミア研究者が互いに協力し、お互いが新薬の研究開発のセンスを磨ける機会にしたい」と考えている。そのため、応募者からの提案にも明確なゴール設定を期待して、提示する研究課題の要件をより具体的に示している。また採択者との契約時には実用化に向けたマイルストーンを置き、1年単位での更新制にして進めていく予定だ。

「このプロジェクトを通じて、良い技術やアイデアを持った若手研究者を発掘したいですね」と話す西中氏。新薬が出にくくなった国内の創薬市場の中で、共に育ちながら成果を目指す企業・アカデミアのタッグチームを作っていこうとしている。

小野薬品工業株式会社
研究本部 研究渉外部 部長
名和裕一
研究本部 探索研究提携部 部長
山本浩史

共同相手を能動的に探し、新薬シーズを見つけ出す

 大都大学大学院医学研究科の本庶佑教授との共同研究から、ヒト型抗ヒトPD-1モノクローナル抗体(一般名:ニボルマブ)を生み出した小野薬品工業株式会社。同社は特定の課題にフォーカスするのでなく、得意とする生理活性脂質と酵素阻害剤を軸とした「化合物オリエント」の創薬手法を用いながら共同研究を展開している。共同相手の公募はしておらず、国内に十数名、アメリカとイギリスに数名ずつの共同研究探索チームを抱え、自社が持つ化合物ライブラリを利用してターゲット疾患領域の研究を進めてくれそうな研究者を常に探している。

 取材に応じた担当者は「世界初のプロスタグランジン製剤として承認を得たプロスタグランジンF2αの医薬品化の成功も、京都大学医学部教授であった早石修先生らとの共同研究から生まれたものです」と話す。その来歴から、新薬を開発するにあたってはアカデミアとの共同研究を行うことが前提のようになっているという。常に数十の共同プロジェクトが走り、さらに前述の探索チームが新しくタッグを組める研究者を探し続けている同社にとって、近年にわかに叫ばれ始めたオープンイノベーションの考え方は、すでに企業文化となっているのだ。