再生医療実用化に向けた真の挑戦の始まり 梅澤 明弘

再生医療実用化に向けた真の挑戦の始まり 梅澤 明弘

国立成育医療研究センター 研究所副所長
梅澤 明弘

富士フイルム株式会社による米国Cellular Dynamics International社の買収、武田薬品工業株式会社と京都大学iPS細胞研究所の共同研究開始など、再生医療の実用化に向けた企業を中心とする活動が活発だ。
さらなる発展のためのカギを握る細胞の品質管理について、自らもこの取組みに関わる国立成育医療研究センター副所長の梅澤明弘氏にお話をうかがった。

日本発、再生医療における新品質管理基準 GCTP

 医薬品の場合、製薬メーカーは有効成分である原料が効果を発揮しやすい形に薬を仕上げ、保存・輸送のための包装を行ない、使う人の手元に届くようにしている。
「例えば、網膜色素上皮細胞でいうと、黒い細胞の塊、これが原料です。それをどのようにパッケージ化して、オペ室に届いた時にすぐに使える最終製品の形にするのか。
細胞を採ってきたところから利用する現場に渡すところまでのルールをどうするか。これがまだ整っていません」。
梅澤氏は頭痛薬を手にしながら、医薬品と対比させて再生医療製品が直面している課題を指摘する。
2014年8月12日付で再生医療等製品についての品質管理、製造管理のための基準、GCTP(Good Gene, Cellular, and Tissue-based Products Manufacturing Practice )省令が厚生労働省から出され、こうした議論が活発化している。
世界でも前例がなく、日本がパイオニアとして牽引していけるかその力が試される。

質的な転換点の到来

 医薬品における品質管理、製造管理では、「人為的な誤りを最小限にすること」、「汚染および品質低下を防止すること」、「高い品質を保証するシステムを設計すること」が求められる。
現在細胞製品の研究、開発、製造の主役は、アカデミアや再生医療系のベンチャーが務める。
しかし、安定した品質管理は大企業向きだと梅澤氏は考えている。
有効性、安全性を決められた規格の幅に収める工程には、創造性ではなく決められた工程を繰り返し、同じ品質を維持できる画一性や堅牢性が求められる。
安定して製品を供給し続けることが前提の企業独自のこの文化は、アカデミアの苦手とするところである。大企業が自社の持つ「規格を定める技術をアカデミアに伝えていくことで、基本技術の研究開発に長けるアカデミアの長所を活かした品質管理実装のシナリオがみえてくるのではないかと梅澤氏はみている。
さらにこうした工程は、資金的、人的資源の両方を必要とするため、数名のベンチャーの手に負えるものでもない。
アカデミアやベンチャーが大企業のインフラを活用する、これまでと質的に異なる産学連携が求められる。

世界的再生医療関連企業は生まれるか

 今や世界的な製薬企業として知られるジェネンテックやアムジェンも、さかのぼればサイエンティストと経営者がチームを組んで始めたベンチャーだった。
優れた医薬品を上市し続ける仕組みを作り上げることで成長してきた両社はいいお手本と梅澤氏は語る。日本から世界的な再生医療関連企業が生まれるかどうかは、アカデミアやベンチャーの努力だけ、大企業の活躍だけでは成り立たない。
互いがそれぞれの強みを理解して協力し始めた先に、新しい領域が拓けてくるはずだ。