研究者たちのライフデザイン 中原 拓さん

研究者たちのライフデザイン 中原 拓さん

[テーマ]研究をビジネスで活かすために

研究者が企業で働くと聞いて真っ先に思いつくのは、白衣や作業着姿の研究職だろう。
しかし実際には、研究経験を駆使し研究職以外の仕事をしている方々が大勢いる。
今回は、日本たばこ産業株式会社(JT)で活躍中の中原拓さんを紹介する。

研究にビジネスの視点をプラスする

 修士課程では糖鎖関連タンパク質立体構造のバイオインフォマティクス研究、博士課程では糖鎖関連タンパク質の理論的デザインの研究を行っていた中原さん。有機化学や分析化学、分子生物学などの研究者と共同研究する機会に恵まれ、中原さんがデータ解析担当として多くのプロジェクトを進めていたという。この経験により、研究にもビジネスと同様にマネジメントや経営の視点が必要であることに気づかされ、さらにはビジネスにも興味をもつようになった。

自分の強みを活かした職場選び

 博士終了後しばらくは大学院の教員をしていたが、博士課程を過ごした研究室から製薬企業との共同成果をアメリカで事業化する話が舞い込んできた。研究経験を活かしたビジネスに興味を持っていた中原さんは、早速渡米しビジネスの世界に足を踏み入れることにした。基礎研究の推進、会社のオペレーション、協働する人へのアドバイス、さらにはMBAも取得し、研究者としての側面はもとより、企業経営の経験を積んでいった。アメリカでのプロジェクトが終了することになり、中原さんは改めて自分自身と日米の研究環境や企業を分析した。そして研究とビジネスの経験という強みを最大限活かす方法として「たくさんの基礎研究を社会につなげる人になろう。」と決意し、日本で企業の扉を叩くことにした。

企業で研究経験を生かす

 現在はJTに所属し、長期的・持続的成長のための経営戦略立案という仕事をしている。企業の長期的成長のためにはイノベーションが不可欠で、それは大学やスタートアップからしか生まれてこないと考えている。中原さんが現在の仕事の中で特に研究経験が活かされていると感じるのは、コアになる科学・技術を持ったスタートアップの事業評価だという。科学・技術を深く理解していることによって、起業家が考えるビジネスモデルとは別の可能性や、他のスタートアップとのシナジーを見出すことができる。

中原さんの研究とビジネスの垣根を越えたキャリアから学べるように、研究経験で得られるスキル(専門性、研究理解力、分析力、論理的思考力、遂行能力など)を意識的に獲得し、自身の強みを実社会に活かす手法を新たに探ってみてはいかがだろうか。

今回お話を伺った中原さんは、自分の強みと目指す姿を常に分析し、チャンスが来ると軽やかに転身されている印象を受けました。

自分のスキルを細分化し、活かしたいスキルや仕事に必要な要素を考えてみると世界が広がるかもしれませんね。 (文・?井 恵子)