【at a Glance】研究と創薬への応用が進む がん幹細胞研究

【at a Glance】研究と創薬への応用が進む がん幹細胞研究

がんの治療法を進展させるものとして、がん幹細胞への注目が集まりつつある。その存在について未だに議論がなされている側面もあるが、様々な知見が蓄積してきており、形成メカニズムの解明に向けた研究、標的医薬の開発など研究は活性化している。2010年には国内では文部科学省科学研究補助金新学術領域研究で「癌幹細胞を標的とする腫瘍根絶技術の新構築」が採択されるなど、がん幹細胞をターゲットにした大型予算の研究プログラムも走り始めている。

がん幹細胞研究の歴史

がん幹細胞は他の幹細胞と同じく、自己複製能、多分化能、無制限の分裂能を併せ持つと考えられている。研究の歴史を振り返ると、1937年にJ. FurthとM. Kahnらがマウスのシングルのがん細胞を別のマウスに移植することで、レシピエントマウスにがんが発生することを報告するなど、昔にさかのぼることができる。また、1964年にはG. B. Pierce Jr.らが多分化能を持つがん細胞をマウスで発見し、報告している。さらに、同じ頃に放射性同位体によって細胞をラベルすることで増殖能を調べる方法が確立され、通常細胞の中に幹細胞が存在するかどうかを簡単に解析できるようになった。このことが研究をさらに進めることになる。1970年代にはヒトの白血病における異常増殖する細胞の発見や、遅い細胞周期を持つ白血病の幹細胞が再発を起こすといったことが報告されており、これらの報告は化学療法のきっかけを作ることになった。

マーカー遺伝子の存在

これまでの研究の知見から、現在ではがん幹細胞のマーカーとして表1にあるような分子が挙げられている。多くは正常組織とは異なる組織中の細胞で発現しているが、中にはCD34のように造血幹細胞のマーカー遺伝子と血液のがん幹細胞のマーカー遺伝子の両方に挙げられているものもある。この中でCD133は結腸がんのがん幹細胞のマーカーとして考えられてきたが、Shmelkov S.V.らが2008年に『Journal of Clinical Investigation』で発表した論文では、結腸でのCD133の発現はがん幹細胞に限られているという従来の見解とは異なる結果を示している。CD133の遺伝子領域の一部をlacZに置き換えたシステムを使ってlacZの活性を持つ細胞を調べたところ、分化した腸上皮細胞で広く活性が認められたのだ。マーカーに関しては妥当性の検証や、新規マーカーの発見を含め、これからさらに最適化が進んでいくことだろう。

表1  がん幹細胞のマーカーと対応するがん

 

新規の抑制機構の発見と応用

マイクロRNAを始めとした新規のnon-coding RNAが次々と発見されているが、最近になってマイクロRNAのがん幹細胞の抑制効果が報告され始めている。2011年にはテキサス大学M.D.アンダーソンがんセンターのDean Tangらの研究チームが、Nature Medicineでマウスを使った異種移植実験の結果などから、miR-34aというマイクロRNAが前立腺がんを始めとするがんの抑制に効く可能性を示している。例えば、前立腺がん細胞においてmiR-34aの量とがん幹細胞のマーカーであるCD44の発現量を比較すると、miR-34aの量が増えるとCD44のタンパク質量が減少するだけでなく、腫瘍が減少することを見出した。反対に、miR-34aを抑えるとCD44のタンパク質量とmRNAの両方が増大することが確認されている。

また、国内に目を向けると大阪大学微生物病研究所の高倉伸幸氏らのグループが、内皮細胞同士の接着に関与し、管腔形成(血管新生において既存の血管から新たな血管が生まれる過程)維持に必要なVE-カドヘリンの発現を抑制するマイクロRNAを同定し、このマイクロRNAを使った血管ニッチを破綻させる方法を開発中だ。

走り始めた創薬、加速する研究

2010年の4月、米国がん研究会議にてカナダのマギル大学のJewish General Hospital Segal Cancer CenterのA. Langleben 氏が、米Boston Biomedical,Inc.が開発したがん幹細胞を標的とした小分子抗がん剤BBI608を使った第1相試験において安全性の確認がとれたことと、一部で抗腫瘍効果が認められたことを発表した。2011年4月7日には大日本住友製薬株式会社が、同社との間ですべてのがん種を対象に日本におけるBBI608の開発・販売権に関する独占的なオプション契約を締結している。こうした事例は、研究が加速するにしたがってさらに増えてくることだろう。

さらに、冒頭でふれた新学術領域研究の「癌幹細胞を標的とする腫瘍根絶技術の新構築」に代表されるように、国内では研究がさらに加速している。同プロジェクトは(1)各腫瘍の癌幹細胞の同定と性状解析、(2)癌幹細胞ニッチの同定と幹細胞維持機構の解明、(3)癌幹細胞を標的とした新規治療法開発、の3つを大きな柱として2014年まで組まれている。プロジェクトは大きく6つに分かれる。がん幹細胞の同定や細胞周期研究、人工的に作り出したがん細胞を利用したがん幹細胞解析、がん幹細胞ニッチを構成する細胞の同定と機能解析、人工ポリマーアレイを利用したがん幹細胞ニッチの解析、次世代異種移植マウスの開発、システム生物学を利用した鍵分子の同定、という6つの大きなくくりの中で様々な手法を利用して統合的にがん幹細胞の理解と、治療法の確立を目指す。

がん幹細胞の理解はがんの治療法の確立だけではなく、体性幹細胞を理解する上でも一助となることだろう。これからの研究の進展に期待を寄せたい。