われわれは地底からやってきた!?|丸山 茂徳
東京工業大学大学院 理工学研究科 地球惑星学科専攻 教授
今や人類は38万km離れた月面にも行けようになりましたが,一方で,ドリルで掘れる地下はわずか10kmしかなく,6400km先にある地球の中心へはいまだたどり着くことができません。「生命をつくるための材料は,足元にある」。東京工業大学の丸山茂徳さんは,地球と生命の歩みを知るカギを探すため,今日も世界を旅しています。
石は歴史を語る
丸山さんは,世界各地を飛び回り,地質調査と岩石収集を行っています。これまでに集めた石はもうすぐ20万個になると,うれしそうに教えてくれました。石の成分をX線解析や電子顕微鏡などで分析すると,その石の化学組成や年代をはじめ,当時の地球環境まで知ることができます。たくさんの石を調べ,ひとつひとつの石が持つ記憶をつなぎ合わせていくことで,今日までの地球の歩みが見えてくるのです。歴史の記憶を封じた岩石や地層から,46億年に及ぶ地球史の全貌を明らかにすることが目的です。
地底から命が燃え上がる?
生命はどこで誕生し,進化してきたのかを知るカギは「リン」にあるといいます。生命をつくるのに必須なリンは通常は岩石に入りづらく,隕石や太古の地球表層の石にはほとんどありません。ところが,東アフリカには,マグマが大陸を押し上げてできる構造「リフト」があり,そこの岩石を調べると岩石100gあたり4gもの大量のリンを含むことがわかりました。地球内部から地上へと物質が移動する地球システムによって,生命の材料が極端に濃縮されて運ばれ,生命が生まれたかもしれない。そんな可能性が見えてきました。
今を,未来を,大きな時空から想像しよう
東アフリカで見つかった石のように,地球の地殻や気候の変動だけでなく,宇宙での星の誕生が生命の進化の謎を解くカギになるかもしれないと,最近研究者の間で議論されています。「これからの時代,より大きな時間と空間の中で現在と未来を考えることが必要なんだ」。地学・生物学・天文学を俯瞰することで, 真の地球史が見えてくるでしょう。生命はどこから来て,どこへ向かっていくのか。彼の目には,もうその答えが見えているのかもしれません。(文・児玉智志)
協力:丸山 茂徳(まるやま しげのり)プロフィール:
東京工業大学大学院 理工学研究科 地球惑星学科専攻 教授。1977年,名古屋大学大学院博士課程修了。博士(理学)。富山大学,スタンフォード大学,東京大学での勤務を経て,1993年より現職。