ウキクサが一躍スターに浮上!?|池 道彦

ウキクサが一躍スターに浮上!?|池 道彦

大阪大学大学院 工学研究科 環境・エネルギー工学専攻 生物圏環境工学領域 池 道彦 教授

川の水面に浮く緑色の葉を見たことはありますか。陸上で栄えた植物が,再び水中に戻り進化してきた「浮草」です。 日本の琵琶湖には,一面を覆うほど繁殖力が高い外来種のボタンウキクサが生息し,厄介者として扱われています。そんな彼らに注目した研究者がいました。

高い繁殖力がポイント

水路を塞ぐ被害も出ているボタンウキクサを,バイオマス資源として使えると大阪大学の池道彦さんは考えました。植物バイオマスは,たくさんの糖分を含んでおり,その成分を原料にしてエタノールをつくることができるのです。燃やして出るCO2 は,もともとは植物が吸収した分なので,CO2 排出がプラスマイナスゼロになるため,環境に優しいと考えられています。まず,植物を乾燥・粉砕して,水を加えて酵母に発酵させ,蒸留することでエタノールの純度を高めて燃料化していきます。

厄介者じゃなかった!

実験ではボタンウキクサの乾燥重量1 g当たり0.15 gのエタノールをつくることができましたが,これは1 年で1ヘクタールあたり10 万トンの生産量に相当します。現在つくられているトウモロコシでは4000 トン,サトウキビでは7000 トンとも試算されていることから,決して劣らない生産能力でしょう。また,穀物を栽培するコストもかかりません。2007 年に7000 万円かけて約2800 トンを駆除したボタンウキクサですが,じつは理想的な資源だということがわかったのです。

視点を変えてみる

さらに,川や湖の汚れを栄養に成長するため,下水処理水から窒素やリンを除去するのにも役立ちます。「そして,最後は発酵させてエタノールにもできます。最高のバイオマスですよね」と,池さんはいいます。身の回りにある生き物を,違った角度から見ることで,あなたにも新たな発見ができるかもしれません。(文・伊地知 聡)

池 道彦(いけ みちひこ)プロフィール:

1987 年,大阪大学大学院工学研究科環境工学専攻修士課程修了。久保田鉄工株式会社(現(株)クボタ),大阪大学での勤務を経て2006 年より現職。博士(工学)