発電所、宇宙に浮かべてみませんか|篠原 真毅

発電所、宇宙に浮かべてみませんか|篠原 真毅

京都大学 生存圏研究所 教授

光エネルギーを電力に変えるソーラーパネルを利用した太陽光発電。しかし,太陽の光がなくなると発電できないという弱点があります。ならば,24 時間常に光を浴び続けられる場所に発電所をつくればい。その答えが,「宇宙」です。

空から電気がやってくる

今から約50 年前,24 時間電気を供給し続ける発電システム「宇宙太陽発電所(SPS)」が提唱されました。その構想とは,衛星軌道と同じ赤道36,000 km 上空に巨大なソーラーパネルを設置し,太陽光でつくられた電力を地上へとワイヤレスで送電するというものです。これまでアメリカや日本の多くの科学者や技術者が,実現に向けて素材や技術の開発と実験をくり返してきました。京都大学の篠原真毅さんらが着目するのは,携帯電話や電子レンジに使われているマイクロ波を送電に用いた研究です。

マイクロ波,ねらいうち

使う波長は5.8 GHz。大気中の二酸化炭素や水蒸気に吸収されないため,雨や雲に影響を受けることなく地上にたどり着きます。試行錯誤の結果,開発した送電装置の表面には,縦横16 列ずつ小さなアンテナが整列しています。すべてのアンテナから同時に発せられた電波は,合わさってそのまま正面に進みますが,右端から順に発した場合は左に曲がって進むようになります。このように電波を発するタイミングをコントロールしてマイクロ波の進む方向を制御することで,36,000 km の距離を越えた上空から指定の場所へ電気を送ることができるようになります。

資源を地球に

人口が増え続ければ資源が枯渇するといわれている中,SPS はエネルギー不足を解決する糸口となるでしょう。篠原さんは,性能向上と低コストの方面でも研究を行い,構想を現実のものに変えようとしています。「人間の活動範囲を宇宙へ広げることで,エネルギーをめぐる争いがなくなるかもしれない。ぜひ科学の可能性を信じてほしいですね」。私たちの暮らしを支えるのは,地球だけではないのです。明日の空に,発電所が浮かぶ姿を思い浮かべてみませんか。(文・松尾 明香)

篠原 真毅(しのはら なおき)プロフィール:

1996 年,京都大学大学院工学研究科電子工学専攻博士後期課程修了。 2010年より現職。博士(工学)。モットーは,「すべてを一度疑ってから徹底的に信じて研究する。盲信は科学ではなく,信じることができないものも科学ではない」。
http://www.rish.kyoto-u.ac.jp/space/people/shino/